第166話 合気の力

 

 鞍馬は、呼吸を整える間もなく、直ぐに立ち上がり、工藤に襲い掛かる。


 考える時間与えない、休ませる事もしない、スタミナと目方で圧倒する鞍馬の作戦である。


 組みつきではなく、打撃での攻撃を選択。


 素人打撃だか、当たればパワーで致命的になる事は理解している。


 力、腕力には絶対の自信があるが、やはりルール無用という事に鞍馬は引っかかる。


 目を潰すのには腕力はいらないし、急所を打たれると、ファールカップはあっても、下手すると決定打になる。


 

 (打撃の選択で間違いない) 


 打撃といっても腕でのフックとストレートのみ、合気道を武器としている工藤にはそれを躱し、いなす事は造作ない事であった。


 頭部を狙う右フックを余裕を持って回避。


 次に左フックで腹部を狙う、先程の右のフックで体勢が崩れているのでその勢いは弱い。


 (ここだ)


 工藤は左腕を両手で掴み捻りを加え、鞍馬を転がすが、自分の力の勢いで転倒したがダメージはない、直ぐに立ち上がる。

 

 決定打に欠ける。


 それは、試合を観る全ての選手が感じる事だった。


 「所詮は、合気道なんてインチキの紛いもん、なんちゃって格闘技だろ」


 喧嘩屋、一之瀬は、せせら笑いながら、自分のセコンドに話しかける。


 「本物はいる、だろうが、あいつが本物かどうかはわからんな、お前は合気道家と戦った事あったか」


 「試合ではないが、気になって合気道の師範代って奴に喧嘩を売った事はある」


 試合外で喧嘩をされるのは困るとも思いながらも咎める事なく、結果を聞く


 「でどうなった」


 「只のおっさんだった、2、3発殴ったら泣きを入れてきた、俺のパンチを捕まえることも出来なかったよ」


 「そうか」


 会話はそこで途切れる、しかし、今世間に出てる合気道は皆似たりよったりだろう。


 素人鞍馬であっても、鞍馬が優位に思えた。


 

 何度か転がされたが、鞍馬に疲れはない、逆に工藤の方が肩で息をしていた。


 (流石に神経を使う、でも、やっとで身体が解れてきた、ここからが本番だ)


 工藤はそう思い一度深呼吸を試みる。

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