第163話 子ども達
バベルトーナメントの前日、都内の某所。
隠れ家のようなBARのカウンターに座る数名の男達。
「まったく、久しぶりに顔を合わせたのが、こんな極東とはな」
比嘉秦王の右腕として動いている前田は、再開を喜ぶというより面倒そうに向い合う。
「まぁ、悪い国じゃないよ、日本は」
バベルトーナメントの参加者タイクーンのセコンドとして来日をしたばかりのチーホイの懐刀の1人、牛山。
太った男だが、決して脂肪の肉体ではなく、筋肉で作られた身体だ。
「あの方の所を離れて、しばらく経つな」
七八は、バベルトーナメントの前から日本に来ており、当初の目的はバベルではなかったが、計画が変更されてトーナメントのセコンドとして参加する事になった。
「俺は、まだ数日だがな」
レッドアイのセコンド扇は、気だるそうにグラスに入ったアルコールを喉に流し込む。
前田は、本題に入る為、スマートフォンをスピーカーにし、電話を鳴らす。
一回のコールで通話状態になる。
「お久しぶり、『兄弟達』」
電話越しの女性の声は、まだ幼さの残る声であったが、電話の相手もまた『チーホイの子供』の1人であった。
「話すのは半年、顔はもう一年はみてないな」
前田のみ、返事をする。
「みんな忙しいだろうから、本題に入るよ」
「私達の父の容態は思った以上に良くない、高齢で体力的に厳しく、病気の進行のスピードも早いそうよ」
その言葉に、扇は問いかける。
「実際、どれくらい持ちそうなんだ」
「もって、半年」
その現実に一度言葉を失う、病気の事はわかっていた事だが現実になるとやはりショックは大きい。
「あの方の後を継ぐ『後継者問題』か」
前田の言葉に、カウンター席ではなく、離れてソファー席座っていた男が発言する。
気配を完全に消し、会話にも入らなかった男だ。
「まったく、お気楽な連中だな」
「あの方の後継者は俺に決まっている」
顔は暗く見えない、その言葉から他の子たちとはオーラも佇まいも違っていた。
現実、その発言に対しても、反論する事が出来ないからだ。
唯一、その場にいない女性だけ、異を唱える。
「勝手な事を言わないで、13名の子供全てにその権利と資格はある、少なくとも今ここで話をしていり6名と父様の側にいる3名は、父様の礼儀として、後継者の事は話し合えるはずよ」
「たしかに、俺は後継者には興味はないが、仲違いして悲しませるのは嫌だな」
七八は、呟く。
「バベルトーナメントは、一つの学びだと、あの方は仰っていた、だから、俺は比嘉の下にいる」
ソファーの男は冷ややかに前田に言葉を投げる。
「バベルとかいうトーナメント侮れない輩はいるがたかが知れている、少なくとも、参加者の何名かを見ても、お前等の方が強いだろ」
「それは、ハッキリはしない」
前田は、その言葉は否定した。
ソファーの男は、バベルトーナメントに関係する子らを睨みつけ、言い放つ。
「チーホイの子とも言われるお前達が、セコンドについて、万が一負けるような事があるようなら」
扇は言葉を遮る。
「安心しろ、そうはならん、もしそのような事態になるようなら、俺自身でケジメはつける」
ソファーの男は、笑みを浮かべ立ち上がる。
「俺は一旦、親父の所へ戻る、医者じゃない俺に出来る事はないが、他の兄弟の接触が気になる、お前達はトーナメントを頑張ってくれ」
そして、右手を上げ、同時に、皆で同じ言葉を発する。
「全ては、父チーホイの為に」
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