第162話 疑心と決意
引き取ってしばらくは、緊張からかあんりから話しかける事もなく、短い返事と相槌だけであったが徐々に言葉は増えてきた。
しかし、両親の話や昔の話をしないあんりを気にし病院の精神科を受診した。
事故の前の記憶は失っている。
それが、医師の見解であった、事故における精神的ストレスから本能的に身体を守る為に、記憶を失っている可能性があると話を鞍馬は聞いた。
複雑な気持ちであった、辛い事なら忘れた方が良いが両親の事を忘れているのは寂しい気持ちになった、しかし、医師はこうも言っていた。
「記憶がなくなっている原因がわからない以上、いつ戻るのかもわからないです、一生戻らないかもしれません」
鞍馬は、いつ戻るのかわからない記憶に耐えられるよう、今できる事『楽しく満たされている』という事をあんりに全力で伝えらる事にした。
引き取ってからのあんりからの何気なく言った言葉。
「パパは強い方がいい」
勿論、パパとは鞍馬一仁の事であり、その日から鞍馬は、強くなる為に鍛える事にした。
大学を卒業し、引きこもりっていた男が、あんりを引き取ってからのスタート、30歳手前、身体を鍛える事にした。
まだ、3歳だったあんりが保育園の年長に上がる時にはその身体はそれなりに作られていた。
ジムで身体を鍛えていた時に、ある男が話しかけてきた。
「いい身体だね、でも、筋肉が多いと強いは別の話だよ」
鞍馬は初め警戒したが、男は興味深い話をした。
「今度、異種格闘技のトーナメントをする、国内最大のイベントだ、そこで強さを示してみないか」
「強さと筋肉は別の話なんだろ、私は異種格闘技に興味はない」
「そうだけど、そこまで鍛えられている、あと一つパーツが合わされば、良い線いくと思うよ、鞍馬さん」
名前を呼ばれた事で、鞍馬の警戒心は最大限に跳ね上がる。
「お前、なにが目的だ」
「申し遅れました、私七八と言います、貴方をより『最強』にする為に声かけさせてもらいました」
七八は鞍馬の事、あんりの事、両親の事を調べていた、そして、義理の娘であるあんりの記憶の為にもトーナメントに参加して、強いインパクトは効果的とも話をした。
そして、勝つために必要な『薬』の事も。
鞍馬は、耳を傾け、じっくりと考える。
このまま鍛えていても、強さの称号はない、また、年齢的に自分がプロになる事も出来ない。
この異種格闘技トーナメントに参加できる、強さの証明のチャンスではないかと。
ただ、筋肉だけの自分が戦える訳はない。
「ドーピングか」
呟き唯一の道を確認する。
目の前にいる七八、間違いなく偽名。
そして、名前からのメッセージも鞍馬は気づいていた。
七八とは、賭事を意味する言葉、賭けるのは自分の身体、手に入れるのは最強、そして、あんりの過去、張らない訳はいかない。
「いいだろう、詳しい話を聞かせてくれ」
鞍馬が決意した瞬間であった。
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