第158話 猛攻

 先手は、熊殺であった。


 喉元を狙う前蹴り、先程とは人が変わったような殺気を帯びた攻撃。


 矢野は、頭をずらし回避、蹴り出した脚は戻さずに、地面に着ける。


 左追い突き。


 矢野の右腹部を腕の上からだが打ちつける。

 そこで、終わりではなく、右の突き。

 そして、手打ちであるが、何度か左右の連打をした後、右の下段蹴り。



 防御を固めている為に、矢野は直に掴みに行けなかったが、下段蹴りを食らったタイミングで掴みにかかる。


 道着を掴まれる熊殺、皆が、先程の華麗な投げを想像するが、それは起こらなかった。


 熊殺の身体は地面に根が生えた様にピクリとも動かない。


 (さっきとは、重心の掛け方が違う、まるで別人だ)


 矢野が困惑すると同時に、強い右の正拳突きがみぞおちに直撃する。


 矢野は、手を離し後方によろける。


 体験した事のない打撃の痛み、矢野は唇を噛みしめる。


 (面白い、そうでなくては)


 熊殺の、追撃は左の下段蹴り、柔道のスペシャリストであっても、下段蹴りを捌く事は出来ない、高い動体視力でなんとか、威力を軽減させるのみ。


 打撃後に、重心がぶれていなければ用意には投げれない、崩しながら、投げに入るにはいくら矢野といえ、簡単ではなかった。




 (投げる為に、一度『崩し』を入れないと、いけない、エリートなら投げそのものの動作に崩しを入れれるが、身長2メートルを超え、体幹を鍛えられた者を瞬間では投げられない、意外にも対戦相手は、熊殺かもしれんな)


 第6試合を控える合気の工藤は、金メダリストを倒した男を自分の力で制圧できるかを、頭の中でシュミレーションしている。


 組技対決を予想していた工藤に取っても今の戦況的に、熊殺に傾いているのは理解できていた。

 

 


 


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