第157話 再開
「鉄矢さん」
対戦相手に背を向けている異例の事態だが、それを起こしたセコンドの鉄矢は特に気にしている様子もなく、熊殺の言葉に耳を傾ける。
「すいませんでした」
ただ一言、それだけを伝え頭を下げる。
試合中に選手がセコンドに謝り、セコンドは何も言わずに頷き、それを受け入れる。
お前の戦い方はそれじゃない、自分を貫く熊殺の戦い、勝ち負けはその後について来る。
セコンドの声なき言葉に、熊殺は自分を見つめ直し、視線を矢野に向ける。
日本の宝とも言われ、柔道界のレジェンド、世間的に地位も名誉もあるこの男に、名も無い自分が打ち勝つ。
そんな最高の舞台に、『らしさ』を消すのは、馬鹿野郎がすること。
熊殺は、緩んだ道着をキツく結び直し、自分の顔を叩き、気合を入れ直す。
「またせたな」
熊殺の表情は先程とは、別人とも思える面構えとオーラを纏っていた。
これが、裏格闘で名を馳せた男、熊殺鉄矢かと、皆が認識を改める。
トーナメント参加者の一ノ瀬大地のセコンド神田は特に興奮の表情を見せた。
鉄矢と業界を追放された後、神田は熊殺を引き込もうと画策した事もあった、伝説の熊殺、その伝説を目の当たりにしたのだ、興奮するのは当り前だった。
その闘気は、周りの空気を蜃気楼のように、歪ませている、矢野は狂気的な笑みを浮かべる。
「構わないよ、さぁ、再開しようか」
二人の男のみなぎる闘志、再開のゴングの変わりに、観客の歓声が鳴り響く。
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