第155話 絞め技
2メートルの巨体をまるで、重力を感じさせずに、投げる最強の柔道家矢野虎次朗。
オリンピックでも、大柄の外国人選手を投げ飛ばしてきた彼に取っては、柔道の技術もない者を投げるのは、造作なき事、抵抗する暇も技術も熊殺には無かった。
もし、これが大会の初戦であれば、矢野はここで手を離していただろう。
しかし、第四試合まで観ていた彼はこのトーナメントは只の異種格闘技ではないことを理解していた。
追撃の手を緩めず、後方から裸絞の体勢をとり締め上げる。
「頭から落とされても上手く受け身を取れていたようだな」
比嘉は、熊殺が投げの受け身を取れた事を意外に感じていた。
前田も熊殺が打撃だけの男と思っていたので感心したが、この体勢前田からはもう勝負は決まったと思っていた。
「プロの絞め技、熊殺は逃げられませんね」
熊殺の表情が苦悶に変わっていく。
(耐えてどうにかなる物じゃない、俺の絞め技を逃れる奴はいない)
実際、矢野の寝技は完璧に極まっている、観客の半分は次の試合の事を考え、熊殺という選手に興味を失い欠けていた。
熊殺は右腕をゆっくり上げ、矢野の顔の位置を確かめる。
弱い力、反撃の一手にはならないとそう矢野は思っていたが、熊殺の指の動きの意図を察知し、技を解いて間合いとった。
観客は疑問に思ったが、裏の選手は直ぐに理解した。
熊殺が、矢野の目を潰そうとしていた事を。
熊殺は、咳混みながらも呼吸を整える眼は死んでいない。
まだ、膝をついた不利な状態だが、矢野は寝技を仕掛けるつもりは無かった。
下手に密着をすると目を潰しにかかってくるのだ、正直目潰しを対応しての寝技を直に仕掛ける事は難しくないが、他にも何か裏の技術を使われる可能性も考慮しないといけないのだ。
迂闊には攻め込めない。
せめてもう少し相手の手をしらないと。
矢野は、一定の間合いを保ちつつ、熊殺から視線は外さない。
熊殺の道着は、意識的か無意識か乱れていた。
乱れた道着を活用すれば、一撃を入れられる。
石森なら、腰の回転力でメダリストだろうが腎臓を撃ち抜けると、櫂は考え、修羅親子も熊殺なら致命打を当てれると、しかし、試合を観戦していた男
、そして矢野と異種格闘技をした男、田上一は違う考えだ。
(矢野さんなら緩んだ道着を掴まず、耳を引き千切るように投げるだろうな)
矢野の狂気的な面を知る田上は、真剣な眼差しで試合を見守る。
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