第154話 一本
熊殺は、手を前に構え、ゆっくりと距離を測り、それに対し矢野も迎え討つ形で間を詰める。
熊殺は空手という枠だが実際には、空手と言っても殆どは実践で磨き上げた技術、まさに喧嘩空手と呼ばれる物であった。
熊殺は、その体格で相打ち覚悟で打撃を入れ、打たれ強い防御力と、打撃の攻撃力でせり撃ち勝ってきた。
裏格闘でも、掴みを専門とする者とも戦ってきたが、今回の相手とは次元が違う。
熊殺は準備してきた。
鍛え上げられた腕に注意する矢野であったが熊殺の今大会で鍛えた必殺の武器は、腕ではなく脚であった。
矢野は、手を広げ、間に入った瞬間に投げを打つ考えであった。
「捕まっても、殴りまくって投げさせない」
「掴まれる瞬間に、重い打撃で突き放す」
「そもそも、掴ませない」
一ノ瀬、北岡、上総介、石森は各々の対柔道家に考えを馳せる。
石森のセコンドの櫂と修羅の見解としては、柔道家に掴まれずに、投げられずに勝つ事は難しいとも考えていた。
櫂は石森に伝える。
「締められたら落とされる、極められたら折られる、掴まれたら投げられると思え」と。
2メートルを超える巨体、それを支える強固な脚、熊殺は一歩前に出て右の下段蹴りを放つ。
喰らえば骨をも砕くその蹴りを、矢野は後退し避ける、問題ない熊殺は直ぐに左中段回し蹴り、しかし、それも空を切る。
回転する身体、明らかな隙が生まれ、矢野は一瞬間を詰めようとするが、それはしない、『罠』と判断、その判断は正しかった、熊殺は敢えて背を向け、回転の肘打ちを考えていたからだ。
釣られないか。
体勢を整えてから、地面を蹴り、顔面でなく腹部を狙い突きを行う。
右の突きが腹部に刺さる。
しかし、間を詰めすぎている、関係者選手はそう感じた、腕での打撃がはいる間は、柔道家の間、掴み、崩し、投げられる間であった。
熊殺の突きは、矢野の腹部を捉えるが、それと引き換えに道着を捕まれる。
耐えるか、あるいは、打撃で応戦、熊殺はそう思う間もなく、天井のスポットライトを下に見た。
余りにも、見事にそして、華麗に熊殺の身体は空に舞い地面に叩きつけられる事になる。
しかも、矢野は、背中からではなく首から落ちるように調整し、背負い投げを行っていた。
柔道の様に綺麗な落とし方ではない、それは、相手を倒す技術の投げであった。
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