第153話 それぞれの思い

 第5試合の二人の選手は、入場を終え、両コーナーで試合開始を待っていた。


 熊殺は、会見でも矢野を見ていたが、試合前の彼は別人に見えていた。


 裏の試合を観る前であれば、矢野は崩しやすい、それは裏を知っている選手の共通認識であってが、今はそうでは無い。



 覇道流空手、覇道上総介、ラウェイ、北岡兵衛、打撃特化の参加者は特に注目の一戦となった。


 打撃対組技、わかりやすい構図。


 北岡は思う。

 (俺の打撃は鉈、どんな相手も叩き切れる、しかし、あの矢野、才能の塊に対抗できるのか)



 上総介も思う。

 (俺達の空手は、元々どんな相手にも対応できる、熊殺さんには悪いが矢野さんの対打撃のやり方、みせてもらいたい)


 

 矢野は、道着を着けて戦う熊殺を観て、林に話しかける。

 「柔道家を相手に道着を着けたまま戦うのか」


 「みたいだな、掴み易いがそれは、罠の可能性も考えないと」 


 「そうだな、熊殺の事は調べたが、あまり情報は無かった、だが、Aブロックの選手達の様な強さがあるのは想像出来る、油断はしないさ」



 熊殺は、太い腕をブラブラさせて、意識的に脱力させる。


 「初手で、目を潰す予定だったが、もうそれは通用しないだろうな」


 セコンドの鉄矢は、矢野の雰囲気を感じ取っていた、初見でみた甘さを感じない、あれは、裏を理解している眼だと。


 「胸を借りるつもりはありません、目潰し、急所を警戒してるなら、シンプルに殴って蹴って叩き潰すだけですよ、俺の打撃ならそれが出来る」



 試合が始まるのを見守る修羅のセコンド阿修羅も、久しぶりに見る熊殺に期待を馳せている、多くの関心を寄せた第5試合の始まりのゴングが今鳴った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る