1回戦 第5試合

第152話 期待の男

 「優勝候補、筆頭」


 世間一般にそう思われており、全ての選手、修羅も櫂もマークしている男。


 もし、裏の戦い方を覚えれば、間違いなく、最強と言っても過言ではない。

 櫂も、大会前に恐らく石森と決勝で戦うであろうと予想した男。



 前人未到の偉業を達成し、国民栄誉賞も手に入れた日本の宝。


 矢野虎次朗。


 

 矢野は控室で腕を組み出番を待っていた。

 集中は最高値に達し、自身でも身体の調子が良いのを感じられた。

 「裏の戦いを見れたのは運が良かったな」


 セコンドの林も矢野も同じ柔道着を身にまとい、矢野に話しかける。


 「ああ、ルール無用、本当の意味を理解出来たのは大きいな」


 戦う前から、闘気が溢れており、控室の空気が歪むのを林は感じる。


 負ける訳はない、林はそう思っていると、運営から入場を促される。


 「虎次朗、行くか」


 「ああ、俺達の矜持を見せてやろう」



 時同じくし、吉田すぐる改め熊殺も準備を整えていた。


 セコンドの鉄矢は白いスーツを身にまとい、セコンドにしてはかなり派手であった。

 熊殺は、黒い道着を纏っていた。


 「なかなか、魅せるトーナメントじゃないか」

 鉄矢は嬉しそうにし、そして言葉を続ける。


 「誰もが、矢野の勝利を予想しているな、お前のような何処ぞの喧嘩空手家、当て馬にしか思ってないだろうな」

 

 「だからこそ、お前の勝利がより劇的になるとう訳だ」


 熊殺は頷く。

 「相手にとって不足なし」


 「国内の宝、ボコボコにしてやりますよ」


 阿修羅と戦った時よりも、太くなった腕と脚、肉体、熊殺の絶頂期はまさに今迎えていた。



 


 

 

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