第150話 勝者の苦笑い

 気迫でなんとかなる物ではない。


 岩田もそれはわかっている、何度も直撃をを喰らい、5度目のダウンをした時には、流石に石森も少し呼吸乱れていた。

 (トータルで15分ほどか、本気の圧をかけてくる相手と向い合うと普段とはまた違うスタミナを消費するな)


 そう石森も考えていた時、岩田は、セコンドに視線をやり、リタイヤの意志を示した。


 木梨は頷き、タオルをリングに投げ入れた。


 決着の時、歓声と両選手に称賛の拍手が送られた。

 まだ、座り込んでいる岩田に石森は、片膝をついて話しかける。


 「岩田…さん、ありがとうございました」


 櫂も、リングに上がり、石森の側で岩田に問いかける。

 「後半の試合展開、アキラの為に、戦ってたように見えたけど、勘違いかな」


 岩田は、軽く頷く。


 「俺との戦いは、『階級差は関係ない事の証明』と『ラウンド制じゃない戦い方』の為だろ」


 「勝てないなら、少しくらいは役に立ちたくてな、それぐらいさせてもらってもいいだろ」


 櫂は、手を差し伸べ、岩田の身体を引き上げる。


 傲慢で、自己中な、アスリートといったイメージは、櫂の中にもう無かった、そして、自身も強さを測るときの指針とさして、表面だけではない、より深い根を知る事の重要性を再確認する。


 万が一、岩田が実力の十分の一でメダリストになっていたのなら、もっと苦戦をしたかもしれないのだ、そして、石森としても、櫂というセコンドがなければ、他のトーナメント選手に手の内のいくつかを曝す可能性もあったのだから。


 

 「でも、わざわざあそこまで挑発しなくても、少しイラってしましたよ、正直」


 「そういうな、俺は口下手だから加減がわからない、中途半端なら誰も俺に注目しない、最後の試合が貴方でよかった」


 「…プロには転向しないのか」


 櫂は、石森の代わりに訪ねる。


 「プロになると国内では試合を組むことは難しいから、海外が主戦場になる、兄弟の面倒を見ないといけなくてな、生活面でも、金銭面でも、なので、俺のボクサー人生はこれで終わりだ」


 ボクサー人生の終わりが、異種格闘技トーナメントは少し皮肉に感じるが、岩田としては、満足な物であった。


 「リングに上がるだけが、ボクシング人生じゃないだろ、セコンドという道もある」


 「セコンド、俺がか、実力差を埋める程の戦術は、俺が憧れていた石森という選手だから、出来ただけだ、セコンドの才能はないよ」



 櫂はの口角が上がり、岩田に助言する。


 「そうか、アキラと戦った事ある選手の負けた原因を探れば、その負けた選手の足りない所は理解できる程の才はあると思うぜ、それに、『ボクシングの才能』はそこまでだが、アンタの弱者の知恵ってのは案外侮れないと俺は感じたんだが」


 励ましてるんだが、下げてるんだが、石森は頭を抱える。


 1回戦、第4試合

 石森陽対岩田貴明


 勝者、石森陽。 

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