第148話 再開
石森の数えるダウンカウントには、一切の意味はない、ダウンカウントでのノックアウトは、コーナーに行きスイッチを押さないといけない。
しかし、その意味合いを岩田は理解している。
ボクサーとして白黒つけよう。
その、無言の問いに岩田は、脚に力を込める応えようとする。
そして、思い出す、過去の事を。
「えっ、冗談だよね」
中学生の時に、初めての恋を打ち明けた時に女生徒は怪訝そうに顔をしかめた。
身長はあるが、オシャレとは無縁、また口も達者ではない。
若き日の彼はモテるタイプでは無かった。
両親もおらず、幼い兄弟の世話をしている彼に取って、オシャレをする余裕は無かった。
ボクシングをしている時は、全てを忘れてる事が出来る、しかし、プロになる事を家庭の事情が許すことはなかった。
ただひたすらにボクシングに熱中する事で自分の境遇を忘れる事が出来た。
練習中、一人の男を知る事になる、石森という男、自分とは違う世界に生きているようだった、同じボクシングであっても期待も境遇も、しかし、それは嫉妬ではなく、憧れに昇華されていき、いつかは、戦いたいという一心となっていた。
(やっとで、本気で向い合えるんだこれで終わりには、出来ない)
岩田は、立ち上がる、石森の数えたカウントはエイトだった。
「せっかくだ、もっとやり合おうぜ、岩田さん」
「あたりまえだ」
ふたりは睨み合い、呼吸あった瞬間、また、戦いは再開された。
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