第140話 悪鬼
「侮れんな」
比嘉は、レオのブレーンバスターを見て呟く。
「予想以上ですね」
前田と比嘉は、プロレスラーに対して懐疑的であったが、それは間違いであったと気づいた。
比嘉は呟く。
「俺は、アメリカでプロレスのチャンピオンと戦ったが、見た目の筋肉と口だけだった、俺の認識としては、技術もなにもない、相手の協力がなければ技も成立しない『格闘技もどき』だと思っていたんだがな」
「日本のプロレスとアメリカのプロレスは違うようだな」
(隙だらけだな、今なら)
天空はそう思ったが、身体が上手く動かず呼吸も詰まる。
プロレスの基礎は受け身で始まる。
受け身で費やす時間は他の格闘技とは比べるまでもない、そもそも相手の技を受ける事を基本としているのだ。
味わう事の出来ない衝撃、ブレーンバスターでリングに叩きつけられた天空はまだ動けない。
レオは、アピールが終わると直ぐ様、天空の顔面にエルボーを何度も打ちつける。
大きく振りかぶって大袈裟なプロレス的なエルボー、天空は微かに動く腕でガードするが、その殆どは顔面にダメージとして蓄積されていく。
(まだだ、回復すれば身体が動けば好転できる)
天空は腕に力が戻るのとほぼ同時に、レオは馬乗りの状態を辞め距離を取る。
有利な体勢であったが、天空の腕力を警戒してのためだった、目を潰させる事も、骨にヒビも入れられる訳にはいかない。
レオが距離を取り構える、すぐに攻撃に移らないのを確認すると、天空は大きく深呼吸し、自分のマワシを一発叩き、腰を落とし上体を上げる。
血で視界は良くないしかし、おぼろげながらレオの姿は見える。
横綱も一度過去に土をつけた天空のぶちかまし、天空はその一撃に全てをかけるつもりであった。
(血で見えづらいが問題ない、長期戦はこの出血じゃ不利、さっきの肘で顔も腫れてきてるだろう、だが、只では負けんぞ、その身体の骨を粉々にしてやる)
流血して睨みつけるその姿にレオも身構える。
次の一撃で全てが決まる事に、会場の誰もが理解し、静寂に包まれる。
相撲の立ち合いは、呼吸が合った瞬間。
レオが少しだけ、腰を落とす。
迎え撃つつもりなのかと、皆が思った瞬間。
天空は、強く地面を蹴り、その身全体でレオに向かって行く。
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