第139話 プロレスラーの業

 勢いよく空に舞う血を見て、観戦している者達は試合の終わりが近い事を予感する。


 天空の豪快な投げ技に多くの観衆が期待するが、天空の額をみて、衝撃を受ける。



 天空の額から大量の出血、出血はレオではなく、天空の血であった。


 


 「あの切れ方、武器を使用したのか」


 スカウトとして動いていた前田は、その指名を終え今は、比嘉の側近として務めていた。

 その前田は、あまりにも綺麗に切れた額に凶器の使用を疑う。


 比嘉と前田は、Dブロックの会場におり、この試合も勿論観戦していた。


 携帯電話を取り出し、Bブロックの部下に指示をしようとするのを、比嘉は制止する。


 「待て、早まるな」


 そして、比嘉は、前田の判断が早すぎるとモニターを見るように無言で促す。

 


 額を切られた天空すら何が起きたかわからなかった、額の血は、目に入り視界を奪う。



 レオは、自分の折れた歯を咥え、天空の頭突きに合わせ天空の額を切ったのだ。


 バベルトーナメントで、武器の使用は禁止、それは、身につけている衣服も直接的に武器としては使用は許されない、しかし、自分の折れた歯を凶器に使う事は禁止されていない。


 万が一、難癖つけられても偶然の事故としてレオは、押し切るつもりであった。


 レオは、口に含んだ歯を地面に吐き捨てる、そこで、多くの観戦している選手は口に何かを含んでいた事を知る。


 


 天空も微かな視界で、それを見つめる。

 

 (歯、なのか)


 まだ、拘束解かない、額を切られても天空は有利は変わらないと思ったその瞬間。


 レオは、口を大きく開き、天空の鼻背のあたりに噛みつく。


 体感した事のない痛みで反射的に右手を離すが、左の拘束はまだ解かない。


 レオは、ずっと空いていた左腕で天空の首を自身脇に挟むように捉える。


 (力比べか)


 天空は、レオの身体を押し出す様に力を入れる、相撲で最も力を出せる体勢だ。


 レオとメリッサは、同じタイミングで心でガッツポーズを取る。


 プロレスラーとして、最も持っていきたい体勢、しかし、その状態に持っていくには、難しいと理解していた。


 しかし、既に策は打っていた。


 ─1時間前─


 セコンドのメリッサは、レオに提案する。


 「あのさ、試合中に私がアドバイスする時に、ロープを触ってたら、そのままの意味、普通に叫んだら反対って事だから、間違えないでよ」


 レオは、マスクの紐をキツく縛り応える。


 「ややこしいな」


 

 「掴んでいた方が有利なら、私が『離れろ』って指示だすから、そうすりゃ相手は逃さないってなるだろ」


 レオは苦笑する。

 「攻め時に、逃げろって指示するのか、そう何度も使えないだろ」


 「一回でも引っかかればいいんだよ、それに、逆の事を言っててるのか、そうなのか思考が一旦迷うだけでも少しの隙は生まれるでしょ」

 

 メリッサは、その派手ルックスと言動で感情的やタイプと思われがちだが、実際は違う、常に考え、行動するタイプ、自分の印象さえ罠としてはっていたのだ。



 力で押し込む天空、レオはその力を上手く利用し、天空を持ち上げる。


 そのまま、ブレーンバスターで天空をマットの上に叩きつける。


 

 腕力で持ち上げずに、相手の力を利用して持ち上げた事に、観戦していた工藤純は、目を丸くする。


 「あの力のいなし方、合気」


 レオのプロレス技に、大歓声に包まれる。


 倒れた天空に対し、ノーダメージをアピールするようにウィンドミルで立ち上がるレオは、観戦に応えるように大声でシャウトし応える。

 

 


 

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