1回戦 第3試合
第130話 岩田と木梨
Bブロック、会場、控室。
「どうだ、調子は」
岩田貴明のセコンドの木梨茂雄は、少し緊張していた岩田を気遣った。
木梨は、岩田のボクシングのコーチで、父の兄でもあり、伯父にあたる人物であった。
「正直少し、緊張してる、メダルのかかった試合よりも緊張しているかもな」
「試合順変わって良かったのか」
「どうでも良いよ、正直」
「結構アンチを集めてて、大丈夫か、暴言者とか、なんとか言われてるのか」
「そうでもしなきゃ、チャンスは訪れない、あの『石森』さんと戦えるチャンスは」
自分よりも年下の石森をさん付けで呼ぶ岩田、マスコミでは絶対に見せない、尊敬を持った言葉であった。
「昔から憧れだったからな、お前の」
岩田は頷く。
相手の攻撃を難なく躱す反射神経、どのような体勢からでも反撃する体幹の強さ、ボクサーとしては珍しい綺麗な鼻、戦う姿はまるで舞っているような石森を密かに岩田は憧れていたが、それほ誰にもわからない。
「同じボクサーだが階級も違うし、俺はアマチュアであの人はプロだ、戦いたくてもチャンスなんてない」
「その時に、このバベルトーナメントだ、異種格闘技なら別階級でも戦える、それも本気で、俺みたいな日陰者が注目を浴びる為には、嫌われるヒールになる方が早い、これが最後のチャンスだ」
木梨は、不器用な岩田に語りかける。
「やはり、プロには転向しないんだな」
「ええ、妹達の為にこの賞金で学費に、そして、その後は、叔父さんの所にお世話になりますよ」
「思い残しがないように、この一戦にすべてを掛けますよ」
「でも、勝ち目は、あるのかあの石森に」
「俺は、あの人がデビューしてからずっと全ての試合を見て学んできた、そのセコンドの櫂の事も知ってます、分析した結果、勝ち目は殆どない、しかし、俺はこの一戦に全部出せるが、石森組は、二回戦、準決勝とその後の試合もあるから、余力を残す必要がある勝機があるとするとそこです」
大きく、深呼吸し、モニターに目をやる、モニターでは、レオがド派手な演出で入場している姿が映る。
(俺は、俺の目的で参加させてもらう)
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