第128話 一撃
─過去─
「大きくなったら何するんだよ」
貫地谷青年は、施設の食堂で、同い年の少年と何気ない会話をしていた。
18になれば施設から出ないといけない、貫地谷理央は、シンプロレスの入門を心に決めて、上京する事が決まっていた。
「そうだな、色々考えているんだが、ほぼほぼ決まってるよ」
「お前はなんでも卒なくこなすからな、バスケもたった一ヶ月で全国出た先輩にワン・オン・ワンで互角だったし、サッカーもプロに声かかったんだろ、サッカーで食ってくのか」
友人はいたずらっぽく笑って答える。
「いや、俺は誰かと競い合うのは嫌いで、俺は宇宙人だから、そもそもスペックがそれは卑怯だよ」
何時もの冗談か、貫地谷は、苦笑する。
「でも、何をするにしても誰かと競い合わないといけないんじゃないか、社会に出て会社で働いても、競争競争だろ」
「確かに、そう思った事もあるんだけど、一つ閃いたんだよな、俺『サーカス』やろうと思って、あれなら誰とも争わなく感動与えられるだろ、多分しがらみとか、家柄も生まれも関係ないと思うし」
サーカスか、それはありかもな、貫地谷は、笑顔で答えた。
「お前なら、なんでも出来そうだな、広夢」
時は戻り、記者会見場─ホテルの地下駐車場。
レオは、横綱の身体を考え高く抱え上げ、最初に考えていたパイルドライバーではなく、違う技を繰り出す。
肩と背中、後頭部を叩きつける、パワーボム。
レオはこの基本的なパワーボムに工夫を加える、支えている脚を地面から外し、空中から地面に向かって叩き落とす。
ライジングパワーボム、レオが得意とする大技の一つ、異種格闘技では先ず見ることはないだろう大技。
横綱は背中から地面のコンクリートに叩きつけられ、後頭部も強打、鍛えられた僧帽筋が頭部を保護したが、その威力は絶大であった。
レオは、拘束を時、少し後ずさりする。
横綱は、大の字で倒れて、頭から大量に出血していた。
親方は一瞬最悪の事態が頭によぎる。
微かに横綱の指が動く、レオは、肩で呼吸をしている。
自分より大きい相手を持ち上げて投げる、それだけでもかなりの消耗、しかし、追撃するだけの力はあるが、今は動かない。
横綱は、ゆっくりと身体を上げ、座り込み、頭に手を当て、出血を確認する。
明らかな隙を見せているが、レオはあえて追撃をしない。
横綱は、手についた血を見ながら話してをかける。
「まさか、俺が持ち上げられ、地面に叩きつけられるとは」
横綱は、苦笑して呟く
「情けをかけられたら、もう戦えないな」
横綱は地面に叩きつける瞬間に一瞬、落ちる方向とは逆に引き寄せ衝撃を逃がしたのを察した。
でなければ、このダメージで収まる事はないと理解していたからだ。
「この勝負お前の勝ちだ、ライジングレオ」
レオは眉間に皺を寄せる。
「おいおい、それは飛躍過ぎだ、まだ、お前は戦えるはずだ」
「嫌、確かにこのまま戦ってもお互い決定打のない消耗戦になるだろ、そうなればバベル本戦に影響が出る、俺は、お前という男が何処までいけるのか少し気になった」
膝攻めは、最初だけ、それ以外は真っ当から自分の力を見せる戦いをしたレオ。
「そう、言われるほどではないと思うが」
横綱は、座りながら話を続ける。
「まぁ、そういうな、お前の対戦相手は俺が認める男天空だ、情けない試合だけはしないでくれよ」
レオはマスクを外し、貫地谷として横綱に答える。
「あたりまえだ」
「いいですよね、親方」
横綱の問いに親方も大きく頷く。
ライジングレオ、ギリギリ滑り込みで本戦への切符を勝ち取る事になる。
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