第126話 力比べ

 「逃げるなよ」


 そう呟くように、ステップを辞めたレオに言葉を発し、横綱は腰を落としてぶちかましの体勢をとり、挑発する。


 レオは無言でそれに応えるように、同じような、体勢をとり横綱を待ち構える。

 

 地下駐車場、観客もいないこの戦いに、独特の緊張感が纏う。


 親方も固唾を飲んで見守る、この重量級の戦い、一手が勝敗を決するのは容易に想像ができていた。

 

 (来るなら来い)


 そう思い、身構えたレオに横綱は体当たりを行う、先程は、レオは威力を逃がしたが今度は真正面から受け止める。

 その衝撃は、全身の骨が砕けるような錯覚を本人に抱かせた。


 横綱のぶちかましを受け、レオは手四つの形に持ち込む、それは、横綱に力比べをする形となる。


 レオは、渾身の力で横綱に対抗する、意外にも拮抗するその力比べは、横綱を驚かせた。


 (まさかここまでとは、面白い)


 横綱はバベルで自分の力に対抗できるのは、同じ関取の天空だけだと思っていた、嫌、バベルという枠組みを外しても自分のパワーに渡り合える日本人など想像もしていなかった。


 本気で戦える事、全力をだせる相手に相撲の力を見せつける事が出来る。


 その事が横綱を昂揚させより、力を増させた。


 幾らか膝に負担があるが、力比べには、横綱に分がある。


 レオは右手首を回し一度力を逃す、そして、右手を引っこ抜く、このままだとまずいと判断した咄嗟の行動。


 しかし、反対の左腕は強く拘束され、閂(かんぬき)の形、片側の左腕なので『片閂』に捉えられる。


 勝負あり。


 親方は、小さくガッツポーズをとる、横綱の腕力から逃れられる者はいない、それは、誰もが知る絶対事実である。


 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る