第121話 双鶴親方

 「八百長とは馬鹿な事をいうな」


 意外にも反応したのは、横綱のセコンドとして参加予定の双鶴親方だった。


 相撲とプロレスは一昔前は、深く繋がり交流している部分もあり、双鶴は個人的にも初代レオを知っていた。

 「私は個人的に初代レオという男知っている、『八百長』を申し込んで勝ち星を貰おうとする男ではない、二代目のお前が馬鹿な発言はするな」


 「双鶴親方」

 横綱は、親方を見る、親方がここまで熱くなる事をを見たことはなかった。

 そこまでの男なのか初代レオとは、横綱はそう感じた。


 「勘違いしするなよ、勝ち星を得る八百長じゃない、『自分が負けるように仕掛けた八百長』だ」


 話を聞いた二人は目を丸くする。


 「有名なレオ事件、その当事者のキックボクサーだれか知っているか」


 二人は無言だった。


 「知らないだろ、あれだけ世間を騒がしたというのに、キックボクサーの名は、マッハ亘っていう選手だ、あの一件で知名度が上がり、あの後も何度か試合を組まれたが、全て判定負け、対した成果もなく引退したよ」


 それは、八百長とは繋がらないと思い、横綱は耳を傾けている。


 「階級上のプロレスラーをノックアウト出来る程の打撃を持つ選手が、他の試合では決定力不足で判定負け、可笑しいと思って去年その男に会いに行ったんだよ」



 「口止め料も含まれていたが、もう時効だと話してくれた、ハイキック一閃でKO勝ちしてくれと持ちかけられた事、勝った後でも報復等は決してしないように抑えこむ事も」



 双鶴親方は、納得したように呟く。


 「確かに、あの当時あの空気なら、何名かのレスラーが報復を考えて可怪しくなかったし、その『筋の者』も何かしら動いても可笑しくなかった、しかし、驚く程なにもなかった」


 横綱は単純な質問をする。

 「だが、ワザワザ負ける八百長をしかける、負けるなら持ちかけなくても、勝手に負ければいい」


 その質問は、双鶴が答えた。


 「レオの強さは腕力とか技もあるが、それ以外も強さも持っているんだよ、それは人間的な強さや魅力値だ、対戦する相手は、レオと戦う時にその目に見えない圧が纏わりつく、空気感、世界観で実力を出しづらい空気にするんだよ、あの男は」


 「負けも派手にした方がいいし、報復も考えさせない為に八百長だ」


 レオはつけ加える、構えは解いていない。


 「レオ事件でプロレスが弱いというなら、それが八百長ならプロレスが弱いとはならない、横綱改めて言う俺と戦ってくれないか」


 横綱は気持ちが揺れる、ただの名声ではない、背負っている気持ちも理解できる、元々は参加の気持ちはあったが、今は、天空に託した思いもある。

 

 (1回戦の相手は、天空か)


 双鶴は、横綱に背中に手を当てる。


 「俺は初代レオとは何度か飲み明かす仲だったが、この件については何も話してくれなかった、二代目の彼にも伝えていない、自分が積み上げた物を全て壊し、プロレスの新しく生きる道を示した、『プロレスは格闘技ではなくエンターテイメント』という道を、あいつは本当にプロレスが好きでプロレスが生きる為に考えたんだろうな」


 今度は双鶴はレオに目を向ける。


「ただ、自分の信じた物を何も知らない人間が勝手に不当な評価をするのを納得できない男が現れたという訳だ、『プロレスラーは強い』俺も本音では、そう思っている、私が言う事じゃないが横綱この男は思いを受けてくれないか」


 横綱は、双鶴親方に言われ、自身も本心ではこのレオと戦いたいと思った。

 

 自分の信じている強さを証明したい。


 俺と同じだと。



 「わかりました、親方、レオといったな、さぁ始めようか」


 横綱は、腰を落とし構えをとる。


 戦いが始まった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る