第119話 車内にて

 レオ、大竜関、対決の三十分前─。


「無謀じゃない」


 メリッサは、ハイエースの車内で吐き捨てるような物言いをみせる。


 レオは、マスクを被っておらず、動く車内でカミソリでヒゲの剃り残しを気にしていた。

 目線は、返せずメリッサに答える。


 「たしかに、無謀かもな、世間的一般に見れば優勝候補の一角と言っても差し支えないだろうし」


 運転手をしている付き人の山本も会話に入る。

 

 「だからこそ、ですよね」


 意図を理解している山本に少し笑顔を見せる。

 「そうだな、よく知らない奴を倒しても説得力はない、看板を背負った奴らなら勝負をそもそも受けない可能性が高い」


 メリッサは、以前後輩のアスカが総合格闘家に対して勝利を収めても、現状が変わらなかったことを考えていた。

 「でも、もし参加者倒しても、比嘉のプロレス嫌いを考えたら、結局リザーバー出されて終わりじゃない」


 その可能性はたしかに大きいが、レオにも考えがあった。

 「そうさせない為に今日の記者会見ってわけだ、生放送中に本戦の選手を倒して、乱入すれば世間はこっち側につく」


 「でも、選手は…、あっ、そうか」

 メリッサは、少し考えてから閃く。


 「そうだ、同じ同門の相撲なら『仇討ち』したくなるだろ、同門じゃなく裏よりの人間なら難癖つけて不戦勝とりにくる可能性もあるからな」


 メリッサは合点が言った。

 「それで、横綱ね」


 山本は、高速を降りながら、レオに小さな疑問をぶつける。

 「でも、同じBブロックのボクシングのメダリストの方も同じ要素が揃ってると思いますが良かったんですか横綱で」


 レオは、カミソリをしまい、腕を組みながら、その問いに答える。


 「石森本人なら、正々堂々と勝ち取ったなら戦う事を選びそうだが、セコンドの櫂ってのが曲者でな、俺は彼奴の事を知っている、奴はレオ個人として知らないだろうが、不利を訴えて対戦相手の変更を要求してきたり、何するか読みづらいし、櫂と石森の相手を襲うとなると、個人的に話をしないといけない奴がいてな、まぁ、ここは横綱が最適解だ」


 レオは、レオとしてではなく、普段のマスクのしたの理央としての顔も覗かせた。



 車は、高速から直ぐに位置するホテルの駐車場に到着する。


 メリッサは、もう一つ、真剣な表情でレオに聞く、これがこの戦いの前の最後の質問だった。


 「でも、そもそも、横綱に勝てるの」



 レオもまた、真剣な顔を見せて、カバンからマスクを取り出す。

 「戦う前に負ける事考える馬鹿いるかよ」



 そう言って一人車をおり、横綱の元へ向かう。

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