第116話 サムズアップ

 九条の戦術を止めるにはいくつかの手が考えられ、それは、ボクシングを主とする者達以外も考えていた。


 組技主体の者は、打撃を潜り、組みつきを考え、耐久力に自身がある者は打ち合いを。


 阿修羅自身は、『砕骨』を考えていた。



 それは、いくつかの策は九条も想像している、そして、アンダーグラウンドでは、その多くの対策は九条に通用していない。



 アンダーグラウンドの闘技者とバベルトーナメント参加者との実力差を考えても、一概に通用しないとは言えないが、天外はより、効果的で過去に九条がされていない返しを考えていた。


 天外は、精神を集中し、瞳孔が大きく開き、九条の全身を余すことなく、観察し、その動きを読む。


 目線、筋肉の動き、攻撃の軌跡、息遣い。


 

 天外は、九条の左に合わせて、潜り込むように間を詰める。

 タイミングは完璧だが、潜り込む事は九条は予測していた。


 (脇腹への打撃か、組みつきかどちらであっても問題はない)


 九条は、潜り込む天外に合わせ、右のフックの軌道を身体全体を使い無理に、アッパーに変える。

 

 潜り込む選択をした者は、ここでアウト、勿論次の攻撃で九条が止まらなくても、終わりだ。


 天外は、右のアッパーが繰り出されたとほぼ同じタイミングで右の鉤突きを左の脇腹あたりに叩き込む。


 勢いはあるだが、九条を止めるには些か力不足と皆は感じた、しかし、次の瞬間、それは間違いと気付いた。


 九条は、苦悶の表情を見せ身体が止まる。


 誰もが予想していない、その光景に頭の中に疑問符が浮かび上がる。


 観戦してる殆どが現状を理解出来ないまま、展開は進む、動きが止まった、九条に対して、天外は、抉る様な縦拳を九条の胸に叩き込む。

 

 

 すると、九条は、糸の切れた人形の様に、頭から地面に倒れ込む。

 

 地面と九条がぶつかる、大きな音だけが、試合会場を包む。


 一瞬の静寂の後、セコンドの扇が叫ぶ。


 「レッドアイ、何をしている、立ち上がれ」



 天外は、扇を一瞥し、ニュートラルコーナーにゆっくり向かい、ダウンカウントを待つ。


 天外がニュートラルコーナーに戻った事で、カウントが始まる。

 扇は何度も呼びかけるがピクリともしない、完全に意識を失っていた。



 カウントは10を超えたが、九条はピクリとも動かない、皆が天外の勝利を確信する。


 天外の実力は、本物だった。


 その事実と、チーホイの思惑を砕いた事に、主催者の比嘉秦王は、笑みを浮かべた。


 「面白くなりそうだな」


 カウントは20を数え、天外の勝利が確信する。


 

 天外は、阿修羅に笑顔でサムズアップをしてみせた、阿修羅もまた、そんな父を尊敬する眼差しを向け、サムズアップで返す。


 (俺に『閻魔』と『鎧通し』を出させたんだ、久しぶりに戦いを楽しめた、だが、俺の相手には、まだまだだったな)

 一回戦第ニ試合、修羅天外対九条一日。


 勝者、修羅天外。


 

 

 


 


 

 

 

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