第113話 虎殺掌

 「この技の型を『虎殺掌』という」


 十数年前、天外がまだ10代の頃、兄弟三名で父からこの技を伝授された日の事。


 閉め切った道場の中、蝋燭の灯りだけが、部屋を照らしていた。


 門外不出の技そう聞いていたが、その中身は特に隠すようなものには、三名は思っていた。


 「この技は、天外お前向きの技になる」

 父のその言葉に次男の空は、不満を顔に出す。

 

 「虎殺掌、見た所攻撃特化の技、それなら俺の方が使いこなす事が出来ます」


 父一徹は、ニヤリと笑う。


 「この技を初見で見たら、そう思うだろうな、『修羅の虎殺掌は攻撃重視なら先をとれば』と」


 「行った通り技ではなく型だ、この技の本懐は一見しただけではわからない部分にある、今お前達が見たのは一部だ」


 「この技の真の強みは…」





 九条に対して、構えのまま間を詰める天外。


 手は後のまま、ほぼノーガードで突っ込む相手に、九条は警戒し攻撃ではなく防御を選択。


 天外の右肘が九条の水月を狙うが、それはガードの上からだった。

 (腕と見せかけての肘打ち)


 九条がそう思った瞬間、二の矢が放たれる。


 打ち込んだ右に対し、天外は左腕の力で右肘を押し込む。


 ガードの上からでも、衝撃が全身に広がる。


 ここまでは、陸、阿修羅とも虎殺掌は行える、天上院が知る、虎殺掌もこの段階まで。


 (流石に耐えたか、だが、俺の『虎』はまだ終わりじゃない)


 天外は右腕に、力をこめる。


 虎殺掌、三の矢は、2つの流れ。


 一つ、右腕を使い、裏拳(顔面)。

 一つ、同じく右腕を使い、鉄槌(金的)。


 天外は、鉄槌を選択。


 九条は、右腕の動きから条件反射で金的を股を閉じて防御。

 

 九条の意識は下に誘導される。


 三の矢も不発。



 (お前の反射神経なら鉄槌は決まらないのは予測ずみだ、目的は意識を下に向ける事)



 天外は間髪いれず、最後の矢、温存していた左、渾身の力を込めた左の正拳突きを九条の顔面に送り出す。


 九条は、三連撃を耐え抜いたが、最後の一撃は回避できず顔面に直撃を受ける事となり、その威力は、鼻の骨を折ることに成功した。


 通常なら、三の矢は顔面から金的、或いは金的から顔面となるが、初手をガードされると連続の打撃に威力がのらない、そして、天外はせっかく意識を下に向けたならより強い打撃(この場合は左突き)を選択したのだ。


 勿論、体幹を鍛えていなければ四の矢まで完全に繰り出す事は出来ず、中途半端な打撃になってしまう、この四まで打てる事(完全な形)は今の阿修羅には出来ない。



 (鼻を砕いて終わりではないぞ)


 天外は体勢を崩した九条に、止めを刺すため攻撃を続ける。


 

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