第103話 冷たい笑み

 千菊丸の攻撃は、ガードの上からでも帝釈にダメージを与える事が出来た。


 理由は、明白、痺れから上手く防御を固められていない為だ。


 右フックで帝釈はよろけ、続けざまの左アッパーで顔面を捉える。

 フックやアッパー等は千菊丸の流派ではないが、オープンフィンガーグローブを着用している事と、連携でぎ、一撃一撃を強く打つために選択した。



 あまりに急な失速に、タダのスタミナ切れじゃないと思う選手も出てきた、しかし、多くの者は毒に行き着かず、行き着いた者も試合開始前に使用されたと思っていた。


 両手で顔を守り全身に力をこめる帝釈、千菊丸は右脚でみぞおちを蹴り上げる。


 隙が大きい蹴り技も使用する、短期決戦を考えるのは、その毒の効果はそう長くないからだ。


 (早い奴なら5分程で抜けてくる、どんな輩でも10分も経てば完全な状態になる、帝釈が守りを固めてるのは、毒の効果が短いと判断してるからだ)


 千菊丸は、距離を取られないように突き出すような打撃を辞め、フックやアッパーを多用する、近距離戦を選択。


 (倒しきれなくても与えるだけダメージを与え、もう少し打撃を重ねたら、距離を取って呼吸を整えないと)


 千菊丸はそう思い、右のストレートを繰り出す、力を溜める動作もあり、打ち込む隙はあったが、帝釈がそれに合わせる事は出来ないと思っていた。


 しかし、その考えは間違いであった。


 帝釈は右のストレートを難なく回避、指を立て俊敏な動きで千菊丸の眼に指でついたのだ。


 帝釈は本当は、眼窩に指を引っ掛けるか、あるいはより深く眼球を傷つけるつもりであったが、自身の状態を考え、眼への打撃だけで留めたのだが、だからといって被害が少い訳ではない。


 つかれた右眼からは涙のように血が流れている。


 千菊丸は、距離をとる。

 (失明はしてないだろうが、今視界は確保出来そうにない、しかし、今の動きは、毒は確かに効いているはずだ)



 帝釈は、殴られた顔を擦りながら話かける。


 「毒とは面白いが、私が戦っていた所を知らないな、仲間に薬を盛られたり、高熱の時にも関係なく試合を組まれる、そんな所で、生き抜いて俺に微量の毒のどうという事はない。あとは、深酒した時に襲われた時もあったな」


 「体調が万全で戦えるとは限らない、多少の痺れ程度なら問題ない」


 帝釈の冷たく笑った。


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る