第101話 攻防

 「『裏・表も関係なく最強を決めるトーナメント』その名には偽りなしだね」



 控室で精神を集中している覇道上総介の後で、モニターを見ていた芽郁と、セコンドにつく上杉は帝釈と千菊丸の試合を見ていた。


 ブロックが違う為、勝ち進めば戦うの後半になる相手だが、戦う可能性もある為、芽郁と上杉は観戦していた。


 幼い頃、芽郁は、噂になっていた人を殺した武道家、鏡花帝釈の事を聞いた事があった。



 幼い芽郁は、素手で人を何人も殺すなんてまるで鬼みたいだと泣きながら、話した時に、父宗円は、真剣に答えた。


 「素手で人を殺すなんて、対した事じゃない、鍛えたら女、子供でもできる事だ、本当に恐ろしいのはその事じゃない」


 人を殺める事の外に恐ろしい事があるのか、芽郁は幼い時にはわからなかったが、今試合を見て理解できた。


 恐ろしいのは、人を傷つける、殺める事に感情を全く動かない事、そんな人間の存在そのものが恐ろしい事を。


 

 

 北海道の空の下、金網の中の男二人。


 帝釈は、千切れった耳を、千菊丸の顔にゆっくりとほうり投げる。


 単純な目眩まし、その耳を追いかけるように、追尾し、左右の掌底で攻撃を仕掛ける。


 それを、千菊丸は、その打撃を捌く、耳から血が流れており、多少の痛みはあるが問題ない。


 掌の平が開いている、掴まれないように、千菊丸は、帝釈の手首部分を叩くように上手く捌く。



 福岡アリーナ、控室。


 櫂は千菊丸の捌きを見ながら一緒に見ていたアキラに質問する。

 「何故、ブロックせずにいるか解るか、あれは打撃の中に、隙あらば捕まえる動きだ、あの系統の打撃には」


 「パーリング、だな」


 アキラは答える、だが、明らかな組み投げ系統の相手なら良いが、総合系や古流武術があの打撃をいきなり使われたら、無意識にブロックを選択しないかは心配であった。


 その心情は櫂は読み取りアドバイスする。


 「アキラ、お前の回避動作は、基本スウェー系統で、触らせない回避だ、そこまで、意識しないでもいいとは思うが頭には入れておくぐらいで問題ない、意識しないといけない時には、俺が大声で伝えるよ」


 

 連続の掌底に手応えを感じない帝釈であったが、焦りはなかった。 


 千菊丸の出血から、長期戦は出来ない事はわかるし、自分のスタミナも考えて、無理に攻めずに削る戦術を取っていたからだ。



 帝釈の望む機会が訪れる、帝釈の繰り出した右腕の掌底を捌き切れずに、二の腕で防御、千菊丸は後方にふらつく。


 大きく後方にふらついてが、あたった感触よりも感覚的に後に下がった事で、帝釈は追撃はせずに、その場、一度呼吸を正す。


 間合い外、ここから攻めに転ずるのは一拍以上かかる。


 しかし、その考えは間違えていた。


 千菊丸は、後方に跳びながら、サードロープに脚をかけ、宙に舞い、間を詰めた。


 (飛び蹴り)


 帝釈は蹴りを警戒したが、千菊丸の攻撃はそれではなかった。


 

 空中諸手突き


 大技ながら、帝釈は直撃を食らう。


 帝釈は、痛烈な一撃で体制を崩す。

 

 「当たるのかよ」


 モニター越しに見ていた、アキラはあきれたように呟く。

 大振りの大技、通常なら通る理由はない。


 「当たる、理外からの技、予測を大きく離れた技は通常対処はできない」


 櫂は表情を濁す、アキラが致命的な一撃を食らう可能性があるのは、このパターンだからだ。


 


 体制を崩していたが、千菊丸は、追撃せずにら呼吸を整えてから、マスクピースを直すように、口の中を触るような仕草を見せる。


 

 攻撃の機運は、千菊丸に回ってくる。

 


 

 


 

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