第100話 これが、バベルトーナメント

 帝釈は、前に手を出し構えを取り、相手の動きに集中しつつ、間合いを詰めていく。


 一歩、二歩、反対側のコーナーから近寄るので、まだお互いの間ではない。


 千菊丸は、構えず腕に注視している。


 実践の中で脚技をしようする事はリスクを伴う、一撃で昏倒させなけば捕まえ、動きを奪われ、倒され折られる。


 帝釈に脚技はない、あるとしても前蹴りのみ。

 

 

 モニター越しからの観戦していた、立技が主の参加者も構えの重心から蹴りは無いことを確認する。



 帝釈は、一歩後ろに下がるように、体重を後に移動させ、一気に間を詰めた。


 左の縦拳。嫌、手が開いている、目潰し。


 千菊丸の動体視力で確認し、防御よりも回避を選択、手で受けたら捕まえられる。

 組まれるのは、避けたい千菊丸は、微かに頭を左のに傾け最小の動きで避ける。


 (空いた左脇に差し込ませてもらう)


 しかし、千菊丸は右の拳を打ち込む事はできなかった。


 帝釈は、回避された瞬間に手首を回して千菊丸の左耳を掴んでいた。


 千菊丸は一瞬だけ考える。


 耳を捕まれたらコントロールされる、ならば、そのまま打撃を選択。


 千菊丸の左肘を左脇に叩き込むと同時に、リングに血飛沫があがる。


 千菊丸は、左耳が『あった』部位に痛さよりも熱さを感じ、間をとる。


 帝釈もまた、脇腹にダメージを受け、間を外す、その手には耳が握られていた。


 (コントロールではなく、初めから引き千切るつもりだったか)


 千菊丸は、耳から血が流れているが、表情は変えない、手で抑える事もない。

 

 (引き千切る動作のせいで、綺麗に当てられなかったのは誤算だったが、耳が千切れても対した影響はないさ)


 帝釈もまた、自分のダメージを確認する。


 (まったく、問題ないが、それよりも耳を千切られても表情も空気も変えない相手か…、おもしろい)


 始まって一分も立たない一瞬の攻防。


 2人とも同じ事を考える。


 (これがバベルトーナメントか)

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