1回戦 第1試合

第99話 試合開始 

 鏡花帝釈は、刑務所に組み立てられた金網に囲まれたリングの上に立ち、リングの硬さを確かめている。



 バベルトーナメントの1回戦第1試合は、北海道の刑務所で行われ、この北海刑務所のみ、地上波でのテレビ放送はなかったが、各会場に分かれているトーナメント参加者の控室ではモニターが出来るようになっていた。



 格闘界で大規模なイベントとは思えないほど、質素な会場、屋外に置かれたリング、観客は鎖で繋がれた囚人とそれを監視する看守のみ。


 入場曲もなく、建物の中からゆっくりと帝釈の対戦相手である乱破千菊丸とその後ろに現首相の伊藤もいる。


 普段のメガネを外しており、七三の髪型もオールバックで後ろに固めていた。

 スーツではなく、上半身裸で、下は黒のスパッツを着用している。


 帝釈は、黒の道着を着用し、髭も少し短めに整えていた。


 帝釈は、前日の記者会見にも参加していないし、特に大会を意識してなかった、普段の日常の延長としか思えていなかった。

 帝釈にとっては戦うとは特別な事でも何でもない。


 「試合中に、死んでも構わないと思っている」


 看守は、冷たい目でいい放った、大会規定で、セコンドをつけることは決まっていたので、看守の1人が適当に帝釈のセコンドにつくこととなった。


 帝釈は無表情だ。


 「戦いとはそんなものだろ」


 

 千菊丸もコーナーで帝釈をじっと見ていた、開始の合図はまだだが油断はしない。


 そして、千菊丸は、帝釈の瞳に意外なほど殺気がない事に違和感を感じていた。


 「勝てそうか」


 伊藤は、千菊丸に問う。


 「どうですかね、でも、貴方が後ろにいるなら、負けるつもりはありませんよ」



 レフリーはリング中に立ち、ルールを説明する。


 「目潰し、金的あり、ダウン後の追撃、寝技あり、ラウンド制はなし、勝敗は、ダウン後のカウント20までに立ち上がれないノックアウトとセコンドによるタオル投入によるギブアップのみ」



 「リング上にレフリーは置きません、リングサイドに四人審判を配置し、その3名が試合を一時中断する権利、ドクターストップの権利を有します」


 レフリーは、それを伝えると金網の外に出て、リングサイドに腰かける。




 囚人からの罵声などはなく、静かだ、緊張感が周りを包んでいる。



 その緊張感は、モニターを通して、全参加者にも伝わっていた。



 そして、ついに、試合開始のゴングが鳴り響く。


 



 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る