第93話 鞍馬という男

 都市部から離れた大きな屋敷、緑溢れる中庭に、噴水もある。


 そこに住む、鞍馬一仁は資産家であり、親の遺産を得た彼のその財は彼が生きて行くにはまったく問題ない額であった。


 また、欲しいものは幼い頃から手に入れてきた、友人すら彼の金で買えないものはないと思われた。


 20歳を過ぎ、25に差し掛かる時には、虚しさしかなかった、生きる上でなに事にも興味は無くなっていたからだ。


 しかし、30歳で彼は、あの時とは全く違う満ちたりた生活を送っていた。


 中庭の見える場所で、椅子に座りまどろむ鞍馬の静寂を切り裂く大きな声が聞こえる。


 「パパー」


 長い髪をツインテールにして、ドレスのような可愛い服を着た、眼の大きな、今年小学校にあがる少女は叫びながら、鞍馬に抱きついてきた。


 鞍馬あんり。

 鞍馬とは、似ても似つかないその可愛いらしい子は、鞍馬を父と呼んでいた。


 「おお、あんり、今日も保育園楽しかったか」


 「うん、ほいくえんでパパの話になったよ、みんながパパのことカッコいいって」


 鞍馬は、笑みを浮かべ頭を撫でる。


 幼い子に対して、自分がこんな感情になるには想像すらしていなかった、この子に出会う前は自分の事と快楽にしか興味はなかった。



 鞍馬とあんりとの出会いにを、紐解く為に話を少し過去に戻す必要がある。



 鞍馬一仁がまだ20歳で大学生の頃、オールバックで細い彼はまるでモデルのようでもあり、ハイブランドを着こなす彼は、学内での注目の的であった。

 少し相手を下に見る癖のある彼であったが、彼の周りには人だからが絶えず、いつも中心にいる彼は最近1人の女性を気にしていた。



 阿部杏樹、同じ学生という事しか知らない彼女、自分に興味を示さずに、いつも、本を読み周りから孤立している。


 友人に聞いても、誰も彼女事について深く知らない、容姿も良い彼女であったが、壁を作る癖がある為、いつからか誰も彼女に関わる事はなかった。




 一仁は、興味半分に彼女に話をかける、それがかれと、娘になるあんりとも物語の始まりである。

 


 


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