第85話 獅子と龍 その3
大城は、少し後悔していた。
これが、通常の試合であれば、開始速攻で高速打撃を繰り出していたら、戦いを優勢に進められただろうと。
(でも、まぁ、それならそれで始まる合図の前から構えて準備してるかね)
蹴りではなく、やはり自分の得意の高速打撃を選択し、間を詰める。
この意を決した大城の気を汲むかのように、上総介も間を詰める。
正拳突きの間合いに入る、高速打撃の為に呼吸を整えた。
しかし、高まった緊張は意外な結末を迎えた。
大城は、軽く後ろに下りお互いの射程圏外になり、構えを解いた。
「やめだ、やめ、こんな所でやる意味ないさ」
大城は、戦闘の意思を捨てたが、上総介はまだ構えを解かない、油断はしていないが、攻める事もなく大城の言葉に耳を傾ける。
「わん(俺)の高速打撃では、残念だけど、覚悟を決めた、やー(お前)を一撃で倒すことはできんさ、少なからず、やー(お前)の打撃くらわんといけん、そのデカイ拳のな」
大城は、緊張を解いた為言葉が、地元訛の独特のイントネーションで話を続ける。
「目とか突かれてやっけーだし、その後に、組みついても、多分お互いにただじゃすまんと思うわけよ、実力が五分ならここで怪我、いや、回復不能のダメージくらうのは、意味ないやんに」
上総介も、構えを解く、言っている事はわかる、予選の選抜で『ルールなしの戦いをするのは、本戦に影響がある』のは、わかりきっている事だ。
「でも、お前の初手の高速打撃で終わるかもしれないんじゃないか」
大城は、首を振る。
「看板背負った男、倒すのは容易じゃないよ」
前田は、この結果に慌てて割ってはいる。
「なら、ルールを明確にし、仕切り直しだ、2人の内1人しか本戦に出れないんだからな」
その提案にも、大城は首を振る。
「『ルール無用のトーナメントの選考試合をルール有り』でしても意味あらんよ、試合を放棄したのはワンだから、本戦は、こいつに決まりさ」
大城は、ゆっくりと上総介に近づく、今度は友好の為に拳を前に突き出す。
上総介は差し出された手を強く握り返す。
そして、深く礼をする。
前田は、事の顛末をメールにて、比嘉に伝え、2人を見守った。
この結果が、上総介として吉と出るか凶と出るか、最後の出場者の相手は前田は、比嘉から聞き既に知っている。
自身が所属する裏格闘の数少ないAクラスの闘技者、『タイクーン』改め山本、勝ち目はないだろうというのが前田の見解だ。
(さて、今日で残りメンバーと組み合わせが発表されるか、辞退する者はいないだろう、このトーナメント俺も楽しみなってきたな)
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