チーホイ 〜闇の住人〜
第77話 推薦 〜その1〜
比嘉の住所は産まれの沖縄から移していないが、普段から各地を移動する事が多い為、ホテルを多く利用している。
自身に敵が多い事も知っておりあまり、同じ場所にいるのは本人的に不安を感じる事があるのも一つの理由だ。
普段は一人で部屋に戻ってくるのだが、今日は、格闘技の興業の終わりが遅かった事と地方からの荷物もある為前田に荷物を持ってもらっていた。
比嘉は、手を塞がる事を嫌がるし、前田はただのスカウトではなく、通常はチーホイの懐刀、ボディガードの側面も持っている。
比嘉は、自身でグラスに氷とウイスキーを注ぎ、口に運ぶ、今日の試合が自身が思った以上に興奮した事を思い出していた。
前田に今日の仕事を終わる事を告げるタイミングで前田の胸ポケットから着信音がなる、比嘉の渡しているスマートフォンではない、その着信音のスマートフォンは、本来の主、チーホイが渡しているもの、即ち、連絡相手はチーホイだ。
前田は、サングラスを取り電話を取る。
表情を変えずに、相手の話を聞き頷く、口を挟まず電話の最後に一言。
「わかりました、すぐ伝えます」
比嘉は、眉間にシワを寄せる、どうせ碌な事では無いことは知っている。
チーホイとか利害関係が一致しているだけで、信用はしていない。
お互いが目指す目的が今は違うだけであって、現在の関係は出し抜く必要はない。
その認識だ。
そんな比嘉の心情を配慮するわけ無く前田は話を始める。
「すみません、今私の主から連絡が来ました、内容は推薦選手の協力したいと言うことです」
比嘉は、そんな事かと少し安堵した、想像範囲内だ、比嘉は過去チーホイとちょっとしたイザコザがあった、その借りを返せると思えば安いもんだ。
「推薦したい選手は2人、是非とも参加させてもらいたい、そして、その内の1人は、『修羅』との対戦を希望しています」
勝手な男だ、そう思いながらも飲むしかない。
表情を崩さず、比嘉はシンプルな質問をする。
「一体その2人とは誰だ」
「SクラスとAクラスのアジア人です」
チーホイが管理する裏闘技場「コロッセオ」、その闘技場でも数名しかいないSクラス、わざわざバベルにぶつけるには何かしらの理由があると考えた。
Aクラスにしてもそうだ、この2人が参戦するとなると今のトーナメントメンバーが弱い訳では無いが、裏の戦い方をする2人と初戦で表の選手があたれば潰される事も予想できる。
万が一にもチーホイの推薦した2人が決勝となったら、比嘉の主催するバベルトーナメントは失敗と言ってもよい。
比嘉は頭を抱えながら、やはりプロレスラーの枠は難しいかもな、そんな事を考え喉にアルコールを流し込んだ。
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