天上院家 〜天上院流武術〜

第51話 誉 前編

 天上院、貴族、上流階級のその家柄は、ある価値観でその一族の流れが変わった。


 戦後の混乱期、富、名誉という力は、暴力、腕力と言われる単純な力には意味の無い事を知った。


 当時の当主は、力あるものを雇うよりも、自身が強くなる必要を知った。

 息子にも、誰にも負けない男になってもらう必要があった。



 金の力で強者から技を習う日々、力は一朝一夕で身につくものてはないが、生活の為に、働く必要のない、栄養価の高い食べ物、專門的な練習ができる彼らにとっては他の誰よりも伸び早かった。



 天上院我狼は、その一族の当主であり、現在天上院学園という学園の長も務めている。


 武道家としてはすでに全盛期を終えた、彼だが、内に燃える炎は衰えてはいなかった。


 そんなある日、ある来客の話にまたその炎は強く燃える事となる。


 比嘉の会見の後、関係者から天上院に再度男が訪問してきた。


 「トーナメントの名前は『バベル』に決まったんだな」


 天上院我狼は、ゆっくりとコーヒーを飲みながら対話を始める。


 黒服の男にもコーヒーを進めるが男は口にしなかった。

 天上院は話続ける。

 「俺は準備出来ているが、まだ、正式にオファーをもらっていないぞ」


 黒服の男は冷たく言い放った。


 「残念だが、貴方の出場選手の候補には入っていない」


 「貴方の顔や情報網の広さは一級品だが、単純な強さという部分では、選考から外れる強さだ、公にはもう何年も試合すらしていないだろう」


 天上院は、怒からか厳しい表情を見せる。


 「この脚をハンデと考えているのか」


 「そうではない、実際隻腕のキックボクサーは候補に残っている」


 不機嫌に席を立つ天上院だが、会話は続ける。


 「ワザワザ、選考落ちを伝えに来たのか」


 「嫌、実力不足とは伝えたが、それは、年齢の部分を考慮してだ、貴方ほどの人だ、『運営側』について、取りまとめをしてもらいたい、貴方程の男がつけばこのトーナメントも箔がつくというもの」


 武術家としてではなく、天上院学園の学長としての参加を打診されるのは悪い気はしないが、疑問もある。

 何故急にオファーをしてきたのか、必要であれば、トーナメントの会見前に打診し、会見を一緒に行った方が都合が良いはずなのだから。



 その疑問を察し黒服は答える。


 「『修羅』と『鏡花』の出場が決まった、他にも『裏』の者たちの出場が決まりかけている、表の選手の事を考えると運営でも抑止力は必要だ」



 天上院は、ニヤリと笑う。


 「引き受けてもいいが、勿論条件はある、とりあえず今の参加者候補を教えてもらいたい」



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