第50話 髭男爵 後編

 鞍馬は、ゆっくりと腰を落として構える構えはレスリングを彷彿させるが、秦王の評価は変わらない、隙だらけに感じた。


 矢口は、軽くフットワークを取り構えを取る、秦王は開始の合図のゴングを鳴らす。


 矢口は、プロレスラーらしくなく拳で右ストレートを繰り出す。


 (自分は、異種格闘技戦もできる)


 といったアプローチであったもあった。


 鞍馬は顔面に直撃するも、構わず組み付く、プロレスラー相手に組み付く、愚策としか思わない戦略であったが、両方の手で腰を捉え、鞍馬は思い切り締め上げる。

 その力は、矢口の身体を一瞬宙に浮かせる。


 2メートル100キロを容易く浮かせられる力、比嘉は目を見張った。


 矢口は、締め上げられながらも、打撃を何度も繰り返す。


 打撃の対処は出来ていないが、打撃を食らっても怯みは見せなかった。


 表情一つ変えずに、万力の如きちからで締め上げる、腰は限界値を超え、背骨が悲鳴をあげる事となり、そのままリフトアップで抱え上げ、リングに叩きつける。


 矢口は、ヒビの入った背骨を叩きつけられ、悲鳴をあげる。


 秦王は直ぐに鞍馬の異様さに気づいた。

 荒谷は、口をあんぐりさせて、呆けている。

 矢口は、痛みで蹲っていたが、ゆっくりと立ち上がる、負けるわけにはいかない、その眼からは闘志は消えていない。


 「『プロレスラー』を舐めるなよ」


 矢口は、なんとか戦闘態勢をとり、タックルを繰り出した。


 しかし、鞍馬微動だにしない。


 ドーピングだな。


 薬の力だと秦王は理解した。

 

 鞍馬は、矢口の首に手を回して、矢口の太い首を締め上げる。


 先ほどの背骨同様に、拳で身体を殴りつけるもやはりビクともしない。


 矢口は、諦めず抵抗するも、その力はしだいに抜けていく。

 気迫だけではどうにもならない、ブラックアウトだ、矢口は力なく倒れた。

 

 

 秦王は、リングサイドで鞍馬に話しかける。


 「『薬』で得た力か、それでは、普通の大会、試合には出られないな」


 鞍馬は顔の傷よりも髭を気にしていた。


 「問題あるのか、強くなるためなら何だってするものだろう」


 秦王は、その実力よりもこの男に興味を抱いた。


 「まぁ、薬は禁止している訳じゃないが、その実力ではとても勝ち残れるとは思えないな」


 鞍馬は、真剣な眼差しを見せる。



 「『最強』の称号は私の者だ」

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