裸の王様 〜レスリング〜

第48話 髭男爵 前編

 比嘉秦王の会見から3週間後、秦王はある男からの電話に笑みを浮かべていた。


 電話の相手は、総理の秘書、電話の内容は、鏡花帝釈の試合参加についてだった。


 『大会の参加を認める条件として、刑務所内を会場とし、1回戦第1試合で対戦相手は、推薦した乱破千菊丸と戦う事』


 秦王は二つ返事で答えた。


 寧ろ総理の懐刀をトーナメントに引き入れたのだ、不満などない。


 秦王の部屋にノックがなり、黒服の男が中に入ってくる。


 「すみません、予定にはない客人が、『自分をトーナメントに出せ』といった話で」


 秦王は、そろそろ、そういう輩がくる頃だなと思っていた、『高額な賞金』『有名な対戦相手』、名を売るにはもってこいの場だ。


 もし、負けたとしても泊はつく。


 「通せ」


 しかし、『負けてもいい戦いをする者』に強い嫌悪感を持つこの男には、その思惑にのるつもりはなかったが、万が一にもまだ見ぬ強者の可能性もある期待感もあった。


 黒服に連れられて来た男は、張り裂けんばかりの筋肉を携えた中年の男性だった。

 足は丸で大木のようで、少し後退した髪に、整えられた口髭。


 (まるでマッチョなポアロだな)


 秦王は、探偵のエルキュールポアロを思い出し、思わず苦笑した。

 体格はいいがオーラは感じなかった。


 「いい身体だが、身体で戦う訳じゃない、名前と格闘技はなんだ」


 明らかに年上だが、秦王は尊大な態度は崩さなかった。


 「鞍馬一仁、レスリングだ」


 鞍馬は短く伝えた。


 秦王は、手元にあった資料に目を通す、レスリングメダリストでもなければ、国内で活躍する選手にも鞍馬の名は1ミリもなかった。


 「馬鹿にしているのか、バベルは最強を決めるトーナメントだ、実績も肩書も推薦もない男がでれると思うのか」


 「『自薦、他薦は問わない』というはずだ、実績や肩書など関係ない、私が最強という事実だけで参加する事に問題ないはずだ」


 鞍馬の主張には、一切の乱れはない、まるで事実かのように自身の最強を唱える。


 秦王は違和感を感じるも、こういう輩が来た時の対策は勿論考えている。


 「なら、その力を証明してもらおうか」


 鞍馬は、ニヤリと笑うそれは、自身の最強疑わない王者の風格を匂わせていた。

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