第47話 侍 後編 その4

 秦王は、暑さを感じネクタイを緩める、緊迫した空気を壊したのは意外にも秦王の笑みだった。


 「緊張するな、一流の俺達はこんなつまらん所で戦わない」


 そう言ってポケットから小切手を取り出し、金額を書き、インガーの前に落とす。


 「これで、この場所には用はないだろ」


 そして、インガーの耳元で呟く。


 「俺は『チーホイ』と知り合いだ、この言葉の意味は知っているな、ここには2度と関わるな」


 櫂は、そのその行動に少し苦虫を噛み潰した顔を見せる。

 「せっかく、俺もお金工面できる用意したんだけどな」


 秦王は、櫂に言葉をかえす。


 「それはやめておいた方がいいな」


 その言葉に櫂ははムッとする。



 兵衛は、一歩前に出て秦王に礼をする。

 「自分は北岡兵衛です、お金の件はしっかり返してもらいます、今日助かりました、名前を伺っても」


 その問いに櫂が不機嫌そうに教える。


 「比嘉秦王、総合格闘家だよな」


 「ご紹介どうも、しかし、北岡、お金は返さなくていい」


 兵衛は目を丸くし、そういう訳にはと拒否を見せるも、秦王はその兵衛を制する。


 「別にタダでやるわけじゃない、『借り』は別の件で返してもらう、今のお前は金の為に試合をこなし過ぎて怪我をしそうだからな」


 「そして、キックボクサーの柊木櫂だな、噂以上の気概だな、お前程の男ならトーナメントに相応しいかもな」


 櫂はニヤケながら答える。


 「トーナメント、あのユナイテッドなんとかという奴か、もう興味ないな」


 「そんな下らんトーナメントではない、『本物の強者』『流派、格闘技にも縛られない』本物のトーナメントだ」


 櫂の思考は、別の考えに回る、強さの証明、そしてもう一つの思惑、それに出るなら俺じゃない。


 「そのトーナメント1人推薦したい男がいる」


 兵衛は、左の拳を強く握った。

 自分の心がそのトーナメントに反応しているのが分かった。


 「本物の強者ならそのトーナメントに参加する資格はある、本物ならな、中途半端な奴は、死ぬだけだぞ」

 

 秦王は、そう伝え振り返る、面白い男達を集めるのは案外時間はかからないかもなそんな事を思いながらも、都市部までの帰り道を考えると少し鬱屈した気持ちになるのだった。


 


 



 


 

 

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