第46話 侍 後編 その3

 キックボクサーの櫂とラウェイを戦場とし、キックボクサーの兵衛。


 2人の強者に、武器を持っていても、大人数だとしても、チンピラ相手にはなんら問題なかった。


 櫂は、相手大振りの攻撃を難なく躱し、右のローキック。

 強烈な破裂音に、チンピラの1人はそのまま蹲る、蹴られた足は一発で紫色になっていた。


 他のチンピラは一瞬躊躇を見せたが、インガーの後方からの激に気合を見せるがなんら意味はなかった。

 

 櫂は、多数のチンピラよりも兵衛の戦いも視覚に入れていた右の肘ストレートの早さもさることながら、左腕での相手の攻撃の捌く事も一級品、櫂にとって、右腕以外の能力の高さを知るいい機会であった。


 兵衛も一撃で相手を昏倒させる力を見せていた。

 


 櫂の視野の広さの他にも活きる、チンピラの1人が重機に乗り込もうとするのが目に入る。

 直ぐ様、手元にある拳大の石を手にとる。


 「あら、よっと」


 その石を相手にめがけて投げ込む、投げられた石は、一直線にチンピラの頭を直撃する。


 

 インガーは、戦況が悪いとなるや、電話を手に取り誰かを呼び出す。


 たった2人の相手に、どうにもならない、だが、『あいつ』がくれば、インガーはそう思っていた。

 

 戦う2人の前に、1人の男が電話に呼び出され、車から降りゆっくりと歩み寄る。


 黒いスーツにサングラスをした坊主頭の体躯の良い男性。


 比嘉秦王。


 サングラスを取り、インガーの横で2人の強者を睨みつける。

 海外で活躍する総合格闘家であり、この1年後にバベルトーナメントの開催を世に号令する男。


 櫂も兵衛の隣に並びたつ、櫂のセンサーがこの男の強さを感じ、兵衛もまた櫂と同じように空気の変わりを感じていた。


 (大物が出てきたな)


 櫂は、軽くフットワークを取る。


 秦王からは、いつでも戦えるそんなオーラ、風格が出ていた。


 戦いが始まるそう兵衛が予感したその時。

 秦王が口を開いた。

 「これは、どんな冗談だ」


 その眼は、インガーに向けられる。


 「『強い奴と戦える場所』そんな話だったと思って来たんだが」


 周りを見渡す、壊されかけた建物、工具を持って倒されている男達、重機。


 「ここは工事現場か何かか、まさか俺に地上げ屋の真似事をしてほしいのか」


 秦王の眼には冷たい怒りが現れていた。


 「何が不満だ、ここに強い奴がいるだろ、金ならある、黙って戦え」


 秦王の手は、インガーの鼻に伸び力ませに鼻を捻る。

 骨が砕ける音が周りに響き、鼻血で地面を汚す。



 インガーは痛みで震えている。


 櫂と兵衛は、間を取り秦王を警戒し、場は緊張感に包まれていた。


 

 


 

 

 

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