第45話 侍 後編 その2
急ぎ現場に到着した北岡兵衛が見たのは、窓ガラスを鉄パイプで割るチンピラ風の男を女性職員が止めようとする場面であった。
「おい、何をしている」
思わず声を荒げる北岡。
その答えは別の方向から聞こえた。
「いやいや、北岡さん、約束の日なので建物を壊しに来たんですよ、というか、出て行ってと行ったはずですよ」
北岡は、ゆっくりインガーに向かって歩き、目の前に立つ。
インガーの周りにはガラの悪そうな若者が何人ももいた。
重機も持ってきている、インガーは本気だ。
「お金は工面出来た、全額ではないが、月の支払いの半年分はある、半年時間をくれたらなんとか新しい場所を探す、それでお願いできないか」
北岡は、提案をする元の支払いの半年分だ、断わられる事はないだろうと汲んだのだが、答えは非情であった。
「お願いは出来ないな、ここの土地代か、今日出ていくかだ」
そして、目の前に契約書を落として渡す。
北岡は、その額に目を疑った、相場の倍以上の金額一括で払う事など出来る訳はなかった。
不条理。
頭にはその一言しか思い浮かばなかった。
「金が無いなら建物は壊す」
そう言って、部下に指示をする。
各々手につるはしなどの工具を持ち、施設を壊しにかかった。
窓ガラスを叩き割った男は、再度振りかぶり、建物に爪を立てる。
しかし、その手に持った鉄パイプは建物にぶつかる事はなかった。
櫂がそれを素手で受けている。
そして、空いた手で、顔面にストレートを打ち込み、一撃でチンピラを昏倒させる。
「なんだてめえは」
周りから怒声が響く。
櫂の表情は、少しも乱れない、今からコンビニにでも行く位の感覚で答える。
「通りすがりの正義の味方だ、ちょっとやり方が気に入らないかな」
敵意が櫂に向かって行く。
呆ける北岡にも櫂は激をいれる。
「オイ、お前の『大切な家』だろ、なんの為の拳だ、戦わないでどうする」
その一言に、北岡は気持ちを入れ、一番近くにいた男にハイキックを繰り出し、一撃でKOする。
それを見た、インガーは、部下に2人を襲うように指示をして少し場から離れる。
櫂は、気合の入った北岡を見てほくそ笑む。
「そうこなくちゃ、俺が戦うって決めた男だ、それでなきゃつまらないよな」
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