第44話 侍 後編 その1

 北岡兵衛は、事務所に飾られている写真を見ていた、写真はこの施設を立ち上げた時に撮られた、写真の中には、子供達と自分、職員そして、協力してくれた友人達が写っていた。


 この状況を知り、皆でお金を工面してくれた、約束の日は明日、なんとか明日には全額ではないが半分は支払いができる。


 とりあえずそれでなんとか、納得してもらおう、そう思い北岡は写真を眺めていた。



 場面は、変わりミスターインガーは、誰かに電話し連絡していた、相手はただの素人だが、手は打つ必要を感じていた。

 使える者は、使う。

 それがインガーの信条であった。

 

 翌日


 「北岡さん、日本からお客様ですよ」


 北岡は、事務処理をしていると若い女性スタッフが声をかけてきた。


 「ありがとう」


 そう言って北岡は、事務所に向かう。

 (誰か約束していたかな)


 そう思い事務所に入ると、知っている顔がソファーの側に立っていた。


 柊木櫂、キックボクサーだ。


 試合予定があったが、都合により中止になってしまった対戦相手、北岡は目を丸くした。


 「突然、お邪魔して悪かったな、今回、こっちの都合で振り回してしまってその謝罪に来た」


 そう言って深々と長い金髪をなびかせて、頭を下げた。


 その顔を見て、兵衛は、衝撃をうける。

 「お前、『Kai』か」


 櫂はイタズラっぽく笑う。

 「そうだよ、柊木櫂、半年ぶりくらいか」


 兵衛はキックボクサーだか、もう一つの顔があるそれは、 ミャンマーでの『ラウェイ戦士』としての顔だ。

 

 来日し、実力を示す為、裏試合でのラウェイにいくつか出場、その後キックボクサーとしてデビューした。


 現在も裏でラウェイの試合をこなしつつ、キックボクサーとしても戦っている、カイとは半年前に地方の祭りでラウェイの試合をした事があった。


 

「ひさしぶりだな、ラウェイで決着つかなかったから、本家のキックで決着つけるつもりだったのか」


 兵衛は少し表情を崩した。


 「そのつもりだったんだか、事情が少し変わってすまないな」


 櫂は本題に入ろうとした時、庭からの大きな女性の悲鳴の声に遮られる。

 

 その声に北岡兵衛は、急ぎ声の聞こえた所に、駆け走る。

 

 

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