生き場 〜空手〜

第39話 熊殺 前編


 張詰めた肉体、太い腕、脚、戦う為の肉体は、『普通』の生活には窮屈でストレスでもあった。


 その肉体は、発散する場所を探していたが、社会に出て誰かから格闘技を習うというのも、男の性格には合わなかった。


 何はわからないまま、男は仕事を辞めた。


 男の名は、吉田すぐると言った。


 自分の価値がわからない鬱屈した気持ちは、仕事を辞め、恋人にも別れる事を呼んだ。


 

 少ないお金で、安い居酒屋の安い酒で悪酔いした彼は街をただフラついていた。


 通りがかりに肩がぶつかる、夜の繁華街トラブルは簡単に起きた。


 「どこに目をつけてる、お前」


 末端であったがヤクザ者の彼等だが、大事にするつもりはない、謝罪で済もりであった。


 しかし、吉田からの返事は謝罪ではなく、拳であった。


 瞬く間に、3名のヤクザをボコボコにした吉田は、血に濡れた拳に高揚感と久かたぶりに感じる生きてる感覚を味わっていた。


 その高揚感を遮るように、黒塗りのベンツが現場に到着し、吉田は拘束され車に乗せこまれ、事務所へと連れて行かれた。


 酔いも覚めた吉田は、抵抗せず自分の起こした重大な事に少し後悔も感じていた、


 (とんでもない事してしまったな)



 「なにを考えてんだ」


 事務所に入った瞬間、白いスーツにサングラス、シッカリ硬め後ろに流した髪とサングラスの下からはでも感じる鋭い眼光、男は鉄矢と呼ばれていた。



 不思議と吉田が恐怖を感じなかったのは鉄矢は、敵意を向けなかったからだろう。

 

 鉄矢は笑いながら、高そうなお酒の蓋を開け、グラスに注ぐ。


 「力が有り余って、やることないなら、俺の仕事を手伝え、その強さ気に入った。見合う新しいビジネスを頼みたい、それでこの件は不問にしてやる」



 吉田は、血に濡れた拳を見つめる。 


 「俺の居場所があるのか」


 「血に飢えたライオンを草食動物の檻には飼えんだろう」


 その言葉で、吉田の気持ちは決まった、強さを求めるそれが自分の道のように思えた。


 「俺に出来る事、居場所があるなら準備してもらいたい」



 吉田は、不敵の笑みを浮かべた。

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