第38話 影 後編

 乱破は、視線の視線は3名ではなく、駐車場全体の空間を見ていた。

 新たな襲撃者にも用心しつつも、3名の不審者がポケットから刃物を取り出したのも見落とさなかった。

 

 同時に刃物を持った3名から襲われたら、全て避けきれない。

 しかし、男達は襲ってこない刃物を持っての攻撃に躊躇している様子もない。


 1人1人刃物を握っていた手が震え、刃物を落としてしまい、呼吸が乱れ蹲る者もいた。

 

 乱破は、再度ポケットからアルコールスプレーを周りに吹きかける。


 『乱破直伝の秘技の毒菫(すみれ)』


 乱破は、毒をスプレーに入れ気化した毒を吸わせていた。

 すみれの花から名前を使っているが、実際はすみれの花の毒ではなく、乱破の秘技の毒物である。


 乱破と伊藤は、幼い頃から食事に少量混ぜ接種している為、耐性があるので影響はない。


 毒とはいっても、死に至る事はなく痺れ程度だか、実戦の場においてはその痺れは致命傷につながり、乱破は、なんの問題もなく不審者達を無力化する事に成功する。


 乱破は、痺れた男達を結束バンドで拘束し、仕事を終え、周りも安全確認がとれ一つ安堵し、総理に無言で解決を伝えた。


 「相変わらず手際がよいな」


 「ここに来る事を知っているのは、確か」


 総理は、無言で首を振る、確定している事をあえて確認するつもりはない、そう思っていた。


 伊藤総理に敵は多い、『正しいを行う』、ただそれだけの事だが、仲間に裏切られたり、足を引っ張られたりは日常茶飯事、はては、暴力で脅してもくる。


 しかし、伊藤総理は、決して曲げない、国民の為、国家の為思えば泥水をすすることも介さないし敵が増える事も恐れていない。


 単純な暴力には、乱破がついてる、恐れはない。


 ふと頭に一つ妙案が浮かび、乱破に問う。


 「乱破千菊丸、世にいる格闘家とも互角以上に戦えるか」


 乱破は裏に生きている、表で戦う事は考えた事はない。


 「わかりませんが、素手でも鍛えておりますので、劣るとは思えませんが身も蓋もないですが、相手によるとしか」


 「なら帝釈ならどうだ」


 伊藤総理の目が鋭く光る。


 「比嘉に伝えろ、『囚人帝釈に恩赦で大会の参加を認める、しかし、刑務所内を会場とし、1回戦第1試合で対戦相手は、乱破と戦うのが条件』だ」

 

 主君の意図はわからないが、主の命なら断らない現代の忍。


 「承知、それが我が主の命なら」


 乱破は、跪き主の命を心に刻む。

 


 



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る