第40話 熊殺 中編

 

 時は、バベルトーナメントの会見の10年前。


鉄矢が吉田に提供した戦いの場は、元々は、組同士の諍いを代表者が戦い矛を収める為始まった物であったが、現在もその色は残るものの、殆どは『賭け試合』へと変わっていった。


 裏試合であるが、意外にもルールは厳格化されており、目潰し、金的、禁止、戦意を失った相手に必要以上の攻撃も認められず、試合中の骨折も決着判定としていた。



 以前は、ルールは無かったが、あまりにも凄惨な試合が続き、選手の確保が出来ない点や公になるリスクを避ける為に今のルールに落ちついた事を鉄矢は説明したが、ほぼ素手での殴り合い通常の格闘技よりは安全ではなかった。



 しかし、まだ、若い吉田の戦いへの渇望を止める事はなかった。


 

 直ぐに承諾し、その次の日には、試合が組まれる事になる。


 吉田は、事務所のソファーで一夜を過ごし、軽い二日酔いのまま目を覚ます。


 「夢ではないか」


 吉田は、そう呟いてソファーの硬さを確かめように座り直す。


 「目覚ましだようだな」


 顔を腫らした男が渡したコーヒーを、吉田を受け取る。


 「顔大丈夫なのか」


 吉田の心配する問いに、苦笑して答える。


 「お・ま・え・にやられたんだよ、覚えてないのか、まったく」


 吉田は、黙っているので、男は喋り続けた。


 「俺の名前は大久保ってんだ、昔格闘技をかじってたんで、ほんとは俺が選手だったんだがな、お前強いんだな」


 自分の実力を知らない吉田は、実感をしなかったが、あと少しで知る事になる。


 そして、鉄矢も事務所の奥から出てきて、2人を見ながらタバコに火を付ける。


 「おう、起きてたか、お前の名前、吉田じゃかっこつかないから、リングネームは、熊殺ってのはどうだ」


 その一言から、熊殺と呼ばれるようになった。


 「あと大久保は、熊殺の細かい面倒みてやれ、元々はお前が戦う予定だったんだから、それぐらいやってやってもいいだろ」


 大久保は、しっかりと返事をし、その日かセコンド、マネージャーのような役割を果たす事になる。


 初戦は、鉄矢が経営するクラブで行なわれる。


 熊殺は、相手の事も場所何も知らない、だが、彼の心にあるモヤモヤは今はなくなっていた。


 

 

 

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