日の下の影 〜忍術〜
第36話 影 前編
都内の高速道路を走る黒塗りの国産車、ガラスは防弾で、その前後には同じような車に挟まれて、国産車は守られていた。
内閣総理大臣の伊藤徳永が乗る車、厳重な警備で移動する必要がある。
60を超え現役に戻ってきた、伊藤の敵は数多くいたが、しかし、今の伊藤の悩みのタネは政治になかった。
「まったく、困ったものだな」
白髪の前髪が後退している頭に手を当て悩む伊藤、『石の伊藤』と呼ばれる彼がマスコミ、メディアでは見せない一面を車内で見せていた。
その弱さを見せる唯一ともいえる男が対面に1人座っていた。
乱破千菊丸、時代がかった名前だが本名。
その男は、七三に綺麗に分けられた髪に、眼鏡をかけ、高級スーツをきた彼は表情を崩さず、話を聞き入る。
「裏金のパーティーの件でしょうか、それなら、いつも通り強気でいかれては」
総理は、腕を組む、乱破を見る。
「裏金の件じゃない、同じ党員であっても不正は不正、恩人の息子だろうが関係ない、然るべき対応をとるつもりだ」
『石の伊藤』は、平均支持率80%を越える総理大臣、その理由の一つは、誰に対しても強固の対応、国民に対しても誠実の彼も頭を抱える事案があった。
「バベルとかいう総合格闘技のトーナメントだよ」
総理の口から、意外な言葉のチョイスに乱破は耳を疑った。
「格闘トーナメントですか」
乱破は、伊藤総理とは10年以上の付き合い、だが、格闘好きとは聞いた事はなかった。
だが、バベルの単語で一つの単語が紐づく。
「鏡花帝釈ですね」
苦い顔で総理は頷く。
「当時の馬鹿者達が、ろくな調べもせずに裁判をし、判決を下し無期懲役にした囚人だ、あの時の裁判、検察も含め不正に手を染めていた可能性も示唆されて、処罰されている」
「その不正をしたとされる者が、無罪の者を有罪としたとなれば法治国家としては大問題ですね」
帝釈が人を殺しているのは、確実だが、国としてあまり掘り起こしてほしくない事件であることは確かであった。
「奴は人殺しのサイコパスなのは、間違いない、面会もしている、心配なのは、奴が勝ち上がって何かしらの影響を国民に与える事だ」
判官贔屓、彼個人の人間性よりも待遇や境遇で支持を得てしまう可能性、それがまた当時の事件を掘り返し、当時の検察や裁判のやり直しにもつながるようなら、重大事件だ。
しかも、そのきっかけが只の『格闘トーナメント』となれば、法治国家としての沽券にかかわる総理はそう考えていた。
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