打ち合わせ

第33話 デビル渡邉 その1

 シン・プロレスは9月東北興行を行う為に、市立の体育館に訪れていた。

 控室にて、レオは、現場監督の長井と話しをしていた。


 「レオ、記者から聞いたぞ、トーナメント候補のキックボクサーを山田が返り討ちにしたんだな」


 レオは、次のシリーズの日程に目を通しながら、気のない返事をする。


 「どういうつもりかしらないが、我らシンプロレスはこの異種格闘技戦トーナメントに参加するつもりはないぞ」


 レオは視線を長井に向ける。


 「睨んでも駄目だ、忘れたのか初代の件を、あれのせいで会社は傾きかけたんだぞ、また、誰か出て負けてでもみろ、一貫の終わりだ」


 その時、控室の扉がノックなしに開いた。


 肩まで伸びた長髪と顎、口髭の大男、目の下にクマ取りをしている。

 名は、デビル渡邉といった。

 勿論リングネーム、本名ではない。


 「レオ、おっと、邪魔だっかな」

 デビル渡邉は一瞬躊躇した。


 「いや、心配ない。何の用だ」

 レオは、長井との会話を断ち切るために、デビルとの話しを優先する。 

 

 「ちょっと、今日の試合の『筋』を変えたくてな」

 デビルは、申し訳なさそうに、笑顔を見せる。


 「急だな。もう客も入ってるだろう。俺たちの試合はメインだが、そんな時間はないぞ」

 


 「いや、もともとパイプ椅子使って場外乱闘する予定だったが、会場入りしてるお客様の中、見たら松葉杖ついた子供がいたんだよ。ちょうど前列でな立ったり、座ったり難儀させるんじゃないかなと」


 デビルの名とは思えない、優しい提案に、レオは目をパチクリさせる。


「それはそうだが、お前が場外乱闘しないと盛り上がらないんじゃないか」


 「だからよマスク破かせてくれよ。絶対盛り上がるぜ」


 一瞬迷うが、それは盛り上がるそう思い、提案にのる、しかも、それ用のマスクもカバンに仕込んでいる。


 「せっかくなら、流血もしたほうがいいかな」


 レオは嬉しそうに提案する。


 長井は、あまり納得してる様子ではなかった。

 「テレビ放送もない、地方興行にそこまてする理由あるのか」


 その言葉にデビルとレオは、お互い笑い合って答える。


 「まぁ、やれる事はやらせて下さいよ」





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る