第31話 過去 後編 その1
「まだ、筋者どうしで試合をしているのだろ」
帝釈の言葉に、記者は息を飲む。
今のこの時代にそんな事をしているとは、記者は知らなかったからだ。
帝釈は、そんな様子を気にかけず、話を続けた。
「たしか、1年前だな」
そんな、風に帝釈は話を続けた。
一年前、刑務所内で、ある男は帝釈に話しかけてきた。
食事の時間のため帝釈は、席に座り食事を取っている所だ。
「あんたが、あの帝釈って男か」
話しかけてきた男は、大柄で全身にタトゥーが入った男は、帝釈を見下しながら話を続けた。
「お前の時代にもあった裏格闘の格闘家だ、あんたの噂は何度も聞いてるぜ」
帝釈は、視線をその男に移した。
五体満足の身体、日本人離れの屈強な肉体、帝釈は、その男に訊ねる。
「あんた、日本人か」
男は、鼻で笑う。
「当たり前で、あんたがアンダーグラウンドじゃ最強って話だが、俺にはそうは思えないな」
男は苛つかせるように、帝釈を挑発する。
「ただの老いぼれじゃないか、俺とやれば一分で死ぬぜ、あんた」
帝釈は、ゆっくりそれに答える。
「あんたは、結婚しているのか」
なんの話だと、男は独り身だと伝えるが、帝釈は、その答えを聞いて尚も質問する。
「今さっき死ぬとかどうとか言っていたが、『試合』たいという事かな」
男は、せせら笑うった次の瞬間、渾身の左フックをまだ座っている帝釈に繰り出した。
男の左手に伝わった感触は、相手の肉の感触ではなく、激痛だった。
帝釈は、食事のフォークを使い、男の手を刺したのだ。
痛みの原因を見るため男は視線を帝釈からきってしまった。
帝釈は、掌を広げ男の顔を掴む、そして、親指を眼に入れ、眼下を引っ掛け体勢を崩す。
今度は、体勢が崩れた男の左腕を取り、思いっきり回転させる、男の身体も回転しないように帝釈は体を入れ、腕だけを回し肩を外す。
痛みで跪くが、攻撃は止めない。
自身の服で顔を覆い、その服を拘束衣のように縛り自由を奪う。
男は、地面にうつ伏せになっている。
普通なら勝負ありだ。
しかし、帝釈は、男の首に足を添える。
「すまないが、君は、あの裏格闘で五体満足の男だ、ここからでも反撃する術を持っていてもおかしくない、遠慮なく攻撃を続けさせてもらうよ」
「命のやり取りを望んだのは君だ」
そう言って、脚を踏み込み、首の骨に力を込めた。
暴れていた男は、静かになった。
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