第30話 過去 中編
目の前に座る男、その逸話は都市伝説と呼ばれる鏡花帝釈。
長い髭を気にしているのか、触りながら、独り言の様に話しだした。
「この髭に髪みっともないだろ、私の髪と髭は1年に1回しか切ってくれなくてな」
聞いても無い事を勝手に喋り始める帝釈。
「髪を切るのも、大袈裟でな、手錠に足枷、拘束してなお、巨漢の看守が2人見守って、大勢で取り囲んで、小さなハサミでチマチマ切るんだ」
「なんでも、『刃物』を奪われないようにだって、おかしいだろ」
笑い話の様に語るが目は全く笑っていない、亀井は、その話を流して本題を切り出す。
「その話も興味深いですが、私が聞きたいのは」
事件の事だろ、帝釈は最後まで聞かずに答える。
「別に隠す事もないし、何度も話してるので知ってると思うんだが、ヤクザ者が俺の妻を殺した、それで俺が報復で事務所の人間を皆殺しにした、それだけだ」
まるで昨日の夕ご飯の内容を話すように、軽く話帝釈に亀井は恐怖を覚えた。
「簡単に死んだ殺したなんだって、あなたの家族も死んでるんですよ」
帝釈はヒゲを触りながら答える。
「死んだのは妻だけだ、息子と娘は生きてるぞ」
亀井は頭をハンマーで打たれたような感覚に襲われた。
「『家族を皆殺しにした』という話は一体」
「さぁな、だが、息子と娘は生きてる、私がしっかり確認してから、事務所に行ったからな、だがまぁ、死んだ事にして別人として生きてる方が生きやすいのかもな」
「面会に来るんですか」
意外な事実に亀井は震えながら質問する。
「嫌まったく、息子の方は私の事を知っているはずだ、私の武道の闇操術を教えたし、別れ際に文献も渡してやったしな」
とんでもない話を聞いてしまった、そんな事を思ったが、帝釈は、この話は何度もしている、そんな対した話ではないと伝えた。
帝釈は、ヤクザの用心棒として裏の試合をしていた事、当時は組同士のいざこざを腕自慢で戦わせ、お互い手打ちにしていた事、負けた者は悲惨な最後を迎える事も隠す事なく話した。
だが、表にこの話が出たことはない。
帝釈は、記者に質問をした。
「まだ、筋者同士で格闘してるんだろ、あまり時代は変わらないな」
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