第28話 笑顔 後編 完結編

 石森の怪我は右腕と肩の骨折、全治3ヶ月の怪我となった。


 石森のタイトル戦はなくなり、この事件は一部のマスコミに取り上げられた。


 身体を動かせない事にあせりを感じつつも焦る事無い日々を過ごしていた。


 涼香は、バイトとお見舞いに忙しく、櫂は櫂で、


「ちょっとやる事あるから、怪我治してて」


 と言っても一週間くらい、顔を見せなかった。


 涼香が部屋の花瓶を替えていた時に、櫂はが訪ねてきた。


 「どうだ、身体の調子は」


 「まぁまぁ、かなり治りも早くて来週からはリハビリに入るかな」


 何故か3人とも復帰の話を出さなかった。


 石森は、この怪我の後でどこまでどれだけ回復できるか戻せるか不安を感じ、櫂は、石森の彼女がこの怪我で動揺しているのを見ている復帰する事に反対するかもしれないと思っていた。


 しかし、そこは確認しないといけない部分だ。

 櫂は意を決して、話を切り出した。


 「アキラ、復帰は考えてるのか」


 少し空気がぴりつく、石森は、言葉を選んでいた。

 「復帰か、その事なんだけど、俺はサポートに回るから、櫂お前ボクシングやらないか、お前なら世界をとれる、それに俺よりも強い」


 櫂は少し表情が険しくなる。

 「俺が強いから、ボクシングを辞めるのか」


 「あのスパーでも感じたが、蹴りを使ったら俺はお前に勝てない、しかも、この怪我からどこまで調子を戻せるか」


 弱気な石森に、激を入れたくなるが、もし気持ちが本当に折れているなら今は無理を言えない。

 しかし、思っている事は伝える。


 「そうか、でも、俺はお前の方が才能があり、俺の足りない部分を持っている、蹴りを使っても結果はわからん」


 2人なら最強を目指せる、その言葉を発する事に躊躇する、気持ちがない状態で戦えば怪我ですまない、その時を待った方が良いだろうか。


 しかし、櫂に意外な援護射撃がはいる。


 涼香は、大きな瞳で真っ直ぐに石森を見据える。


「『なぜ、簡単に諦める、あと少しの踏ん張りが自分を強くするんだ、言い訳をして楽な道を選んだ先に強さを手にできるのか』」


 涼香は、あの日の言葉を石森に伝えた。


 本当は、身体の事が心配だ、そのまま戦えばより大きな怪我をするかもしれないし、生命に関わる事もあるかもしれない、でも、彼がボクシングを辞めるのは想像出来ないし、自分の事を気にして辞めるのはもっと嫌だった。


 「復帰したいなら、応援するよ、その後で強くするのは、櫂くんに任せる」


 「勿論、俺に出来なくてもお前になら出来る戦術もいくつか用意してるんだ」


 櫂は、口火を作った涼香に便乗する。


 2人が、2人なりに自分の事を思ってくれている事に心が熱くなった。


 「そうだな、ちょっと頭を打って弱気になってたみたいだ、直ぐに身体を治す、それからは櫂、お前の力を貸してもらおうか」


 3者3様の笑顔を見せた、その笑顔の先には希望の未来が見えた。

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