第27話 笑顔 中編
王者の持つ強運か、それとも日々の鍛錬の賜物か、石森の命の危険はなく、日常生活においても問題が無い事が涼香に伝えられた。
次の日の午前、涼香は一睡も出来ずに、眠る石森の隣に腰掛けていた。
個室の部屋の扉が開く、櫂だ。
「涼香ちゃん、ちょっとは寝たほうがいいんじゃない」
涼香は首を振り答える。
「今は眠りたくないかな、それより櫂くんも昨日から寝てないんじゃないの」
バツが悪そうに櫂は、自分は鍛えてるから問題ないと伝える。
櫂は、事故の原因が自分の事のように罪悪感に蝕まれる。
実際は、歩道に突っ込んだ車が母娘にぶつかるのを石森が身を挺して守ったのだ、櫂に過失は全くない、だがなんとなく嫌な気持ちが心を締めつける。
「櫂くんは、悪くないよ」
心を読んだのか涼香は伝える。
「最近、アキラとても楽しそうで、あんまりお喋りってキャラじゃないのに、櫂くんの事よく話してたよ、『あいつは、ボクシングでもトップにたてる』とか『頭がいい』とか、本当に楽しそうだったんだから」
気付かう涼香の発言に、流石は石森が惚れた女性だなと思った。
櫂は端正な顔立ちをしているしスタイルも良い、女性から声をかけられる事も紹介される事も良くあるが、心を動かされた事はない。
そんな空間の中、石森はゆっくりと目を開けた。
「一体、何が」
涼香と櫂は喜びを共有し、櫂は直ぐにナースを呼びに部屋を飛び出した。
ナースコールの方が早いのだが、興奮状態の櫂は普段とは考えられないくらい冷静な判断が出来なかった。
「よかった、ほんとによかったよー」
涼香の眼には涙が溢れていた、石森は自分が怪我をして心配をかけた事を申し訳ないと思い、涼香を慰める。
頭の片隅には、これからの事が頭をよぎるがそれは、また、後で考えようと思った石森だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます