第25話 友 後編 完結編
石森と櫂はお互いのコーナーで向かい合った、グローブは、スパーリングで使う14オンスよりも大きい16オンスにし、ヘッドギアを着け安全性を高める。
櫂は、ボクシングのスパーリングだが、万が一を考えてレガースも装着している。
始まりのゴングが鳴り、お互いゆっくり間を詰めグローブを合わせて、無言で挨拶をし始める。
先手は意外に、石森の方だった、左ジャブを1発、2発、牽制する。
櫂はまったく動じることは無く軽く回避。
お返しとばかり、櫂は、左ジャブから右のフックを繰り出す。
それを半歩下がり、右のフックは空を切る。
初手から、物怖じせずに間を詰めてくる回避、右のフックは、当たらないが構わず、右ストリートを出す。
ガードを上げ防ぐ石森。
お互いに交互にコンビネーションを出す、まだギアを上げずに準備運動のような試合展開。
「一分経過」
楽しい時間は早いな、櫂は時間の経過を気にして、ギアをひとつだけ上げる。
グローブと肉がぶつかる破裂音のような轟音が響く。
櫂の左ジャブが石森のガードしている右腕のに打つかった音だ、その音は、渾身の右ストレートのように思えた。
(存外、早いな)
石森は面を食らったまさか、ここまでのスピードを16オンスグローブで出すとは、思わなかった。
お返しとばかりに石森は、右のストレートを単発で繰り出した。
櫂は容易に避ける事が出来たが敢えて、ガードをし石森の拳を確かめた。
(まるで鉄だな、これが本番ならガードも意味ないな)
お互いに表情が緩む、そこからお互いギアを上げたスパーリングとは思えない展開であった。
手数は櫂が多いが、石森のセンスはそれを避け、体勢が悪い状態からの反撃であっても威力を有する石森のパンチを櫂も難なく避ける。
中間距離での攻防、石森の方が若干優位に思えたが、世界チャンピオンの石森についてくる櫂のボクシングセンスも異常だ。
櫂は少しずつリズム、攻撃のパターンを読んできた、コンビネーションの間に右フックを合わせる。
通常なら間に合わせる事ができないタイミングだ、その右フックは石森の顔面を捉えた。
ギャラリーから歓声が漏れる。
石森が顔面にパンチをもらう事は誰も見たことのない光景だった。
しかし、櫂は手応えの無さを感じた。
スリッピングアウェー、パンチが伸びる方向に顔を背けるようにして受け流す防御技術。
コンビネーションの合間に合わせた自身の最速のパンチをスリッピングアウェーで回避するセンスに
櫂は感動した。
感動したが、身体は次の動作右のストレートを繰り出していた。
それも、顔を反りギリギリで避ける。
(それも避けるのか)
嬉しい反面、回避能力に軽い嫉妬を覚える、しかし、今の体勢なら、右のミドルでも右のローキックでも容易に入るなと感じる。
(この右ストレートは、バックステップで回避しなきゃ、蹴りが入ってたな)
身体が反射的に蹴りを出そうとするのを、理性で止め、右フックでボディを狙う。
一瞬の間があったガード上からでもボディを打たれたら、そこからまた、コンビネーションがくる事を警戒し、石森はバックステップは選択。
下がって、左が空を切ったのを確認し、間を詰めながら左ストレート、それに合わせて櫂は右ストレート、タイミングは同時にお互いの顔面を捉えた。
ヘッドギアと16オンスグローブには、対したダメージはない。
(このまま、お互い気の済むまで)
お互いが、そう思った瞬間に、無常にも終わりのゴングがなる。
いつの間にか3分が立っていたのだ。
お互い無言で健闘を称えコーナーに戻る。
(いい試合だった、櫂が本気でボクシングをやればもしかしたら、敵わないかもな)
今日は出し切った石森は、シャワーを浴び、そのまま自宅へ帰る準備をし、ジムを後にする。
櫂とは明日また話をしよう、今日のスパーリングの内容等語りたいことは数多くある。
石森は、防衛戦よりも櫂との闘いが心を熱くする事を感じた。
防衛戦は行われる事はなかった。
その帰り道、石森は、信号無視の軽自動車から、幼い子を守る為に、交通事故に遭遇してしまう。
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