第23話 友 後編 その1

 北岡兵江は、ミャンマーでキックボクシングの選手として活躍し、そのファイトマネーを慈善事業に寄付をしていた。


 礼儀正しく、必要な事しか話さない、その姿にミャンマーの人々は彼を『ラストサムライ』と読び尊敬していた。



 事務所で、櫂の太田会長が持ってきた資料に目を通していた石森は、聖人君子ってのはこういう人を言うんだなと思った。


 その後に、会長の持ってきた動画を確認する。


 動画を再生しようとする会長を静止し、櫂は石森に問いかける。


 「隻腕の選手が相手の時、アキラお前ならどう試合を組み立てる」


 急な質問に石森は腕を組み考える。


 「まぁ、普通に考えるなら無い方の腕を攻めるかな、ガードも攻撃も緩い部分だろ」


 とりあえず、思いつく考えを述べる、その答えを聞いて櫂は、動画を見せる。


 動画には、引き締まった筋肉に、少し浅黒い肌、髪を後に縛り、顎髭を少し伸ばした一重の隻腕の

日本人がコーナに立っている。

 北岡だ。


 「相手は、試合数を20を超えるベテランだ」


 太田はそう言い、説明する。


 試合は、お互いローキックで牽制して始まる、石森にはあまりみない光景だが、始まりはこういう、ものかと見守る。


 試合が動くの一瞬だった。


 対戦相手が右側に間を詰めた瞬間に、そのまま倒れ込んだ。


 石森の頭に、疑問符が浮かび上がる。


 映像のカメラの位置も悪くよくわからないって感じだった。


 「右のストレート」


 会長が、その疑問符の答えを伝える。


 他のいくつかの動画も、北岡の欠損した右から繰り出される右のストレートで試合が決していた。


 「見えないんだよな、この右ストレートっていうか右のヒジなのか、まぁハンドスピードが早すぎるんだよ」



 石森は、ひとつの疑問が浮かび質問をする。


 「でも、櫂お前なら中間距離で圧倒する事もできるし、わざわざ対策たてる相手じゃないんじゃないか」


 石森の見解は正しかった。

 北岡は強い、しかし、櫂なら中間距離で圧倒する事は用意で、キックの質もパンチも上位であった。


 「わざわざ戦う理由なんてないんだよ」


 答えたのは太田会長であった。

 「実際、北岡は何回か負ける試合もあるんだ、中間距離でやり取りからの判定負け、近距離は強いがそれ意外はそこまでだ」


 「でもな、北岡に判定勝ちした選手ってのは大体人気が落ちるんだよ、下手すりゃ試合を組まれない、だから俺は試合するなって話をしてるんだよ」

 

 その見解に櫂は、意見する。


 「だから、判定勝ちじゃなくて圧勝すれば問題ないんだから、という事でアキラ少し手を貸してくれよ、お前の右は、北岡以上だと思ってるんだから」



 櫂の提案に、石森は快諾する、2人で練習すれば得るものも多いと思ったからだ。


 「もちろん、俺もお前の世界戦に協力するからな」


 会長は頭を抱えた、櫂は言い出したら止まらないし、時たまとんでもないことを言い出す。


 また、悪い癖がでたな、しかし、その悪い癖はいつも良い結果を呼ぶ事も知っている。


 「試合の調整は、こっちでするから、いつでも戦えるように準備しておけ」


 そう行って会長は部屋を後にする。



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