第13話 蕾 中編

 工藤純は、都会の専門学校を卒業し、同窓会の為に地元に戻り、夜の同窓会まで旧友勝次とファミレスで再開を喜んでいた。


 「久しぶりだな、純、都会はどんなだ」


 純は、卒業したが、就職をせず半年が立っており、特になんの目標もなく過ごしていた。


 「まぁ、普通、楽しい事もあるけど、そろそろ遊んでばっかはなぁー」


 他愛のない会話から話題は、小学生の頃の話になっていた。


 純は、昔から線も細く、中性的な顔立ち、体格的にも男らしさとは少し離れているタイプであった、純の父は警察官で、そんな男らしさのない純を心配し、強くする為に習い事を勧めてきた。


 しかし、当時の純は、大人数で集まり、汗臭い格闘技には興味を示せなかった。

 でも、厳格な父親がそれを許さない事を知っていた為、純は地域にある小さな合気道道場を探し、そこに通う事で納得してもらった。


 純は、昔話の中で、その合気道道場に通う同級生、梓を思いだして会話にだした。


 男勝りの女の子、女子よりも男子と一緒に泥だらけで遊ぶ彼女に初恋のようなものを抱いていたのを思いだす。


 純の同級生の勝次は、梓の名前を聞き表情を曇らせた。


 「そっか、お前梓と高校違うし、地元離れてたから知らないのか」

 


 「梓の家って元々、問題あったろ、梓もおじいちゃんが面倒見てたし、そのおじいちゃんが確か、中学3年とか高校1年あたりで亡くなって、それから、父親が再婚相手と遺産がどーとかで戻ってきてさ」

 

 純は、ハッとした確かに梓の祖父から合気道を習っていたし、夕食も食べさせもらった事もある、祖父の顔は覚えているが、梓の親を見たことは一度もなかった。


 「それから、お前も通ってた、あの道場売っぱらしいよ、それから」


 勝次は、喉に詰まらせながら言葉を続ける。


 「再婚相手に逃げられてから、荒れて家庭で暴れて何度も警察沙汰になってる、俺も最近知ったんだけどさ」




 純は、梓の話を聞き、勝次と別れた後、同窓会までの時間、梓の家に向かい歩いていた。

 実家の場所は知っているが、引っ越しし、実家裏のアパートに暮らしているらしい

 幼い頃は遊んだままの道は、何か縮んだように見え、少し感傷的に歩を進める。

 

 勝次の話を聞いてモヤモヤしていた、この件を自分はまったく知らなかった。

 

 古びたアパートの眼の前に捉えた時、怒声と大きな物音が閑静な田舎を包む。


 咄嗟に駆け出し、音のなった2階の部屋に向かう、部屋の場所がわかったのはその部屋の周りが物で散乱していたからだ。


 ドアが空いていた為そのまま覗き込む。


 

 幼い頃淡い恋心を抱いた女の子が、太った中年に髪を掴まれ何度も殴られていたのだから。


 そこで見た光景は、純は生涯忘れないだろう。



 

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