第10話 嶺 後編 その1
百万入ったら、何しようかな、一ノ瀬の頭はそれだけだった。
普通の感覚なら、高額の賭けの話をされたら、萎縮するものなのだが、この男は普通ではなかった。
神田は、ボーイに声をかけある男を呼び出した。
坊主頭に髭面の男、腹は出ているがその腕と脚にはしっかりとした筋肉が乗っかっている。
「サモ・ハン、どうだ調子は」
「はい、悪くないです」
サモ・ハンと呼ばれた男は短く答えた、名前から日本人ではないが、流暢な日本語は一ノ瀬を混乱させた。
「『悪くない』か、ここ2ヶ月連敗してるのは、調子良くて負けてるのか」
サモ・ハンは黙ってうつむく。
まぁ、いい、そう言って神田は、目線を一ノ瀬に移す。
「この男、サモ・ハンと試合して勝ったら百万やろう」
「いいですよ」
一ノ瀬は、簡単に答えた、負けた時の事は、考えていない様子に慌てて太田が負けた時の事を確認する。
「負けたら、この大男にはちょっとしたタダ働きしてもらう、お前は俺の時間を無駄にしたという事で、指の骨でも折らしてもらうよ」
そう、冗談ぽく神田は言うと、VIPルームをでて、カウンターの裏にある周り隠し階段のような階段を目指す、その後に男達は続く。
その階段を登ると開けたフロアにはリングが置かれていた。
1流キャバクラの隠し階段の上にリング、あまりにも不釣合だ。
「軽く準備運動でもしてくれ、その後に試合を始めるぞ」
神田はそう言い終わらない内に、一ノ瀬はリングに上がり始めて構わない旨を伝える。
不遜な態度にサモ・ハンも続いてリングに上がる。
「神田さん」
リングの階にいたスキンヘッドの中年は、神田に話かける。
「あの大男はなんです」
「おのぼりまるだしの格闘素人だ」
中年は、それ以上なにも聞かす、一ノ瀬を観察する、筋肉、体格は素晴らしいが、構えも素人、格闘家が出す独特のオーラはない、ただ大男が立っているそれだけだ。
対してサモ・ハンは、賭け試合のトラブルがなければ絶世期にはチャンピオンになれるとまで言われた男。
神田さんは何を考えているんだ、中年のスキンヘッドの男はそんな事を考えていた。
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