灰色 ━喧嘩屋━

第8話 嶺 前編

 いつもは、寝ている時間のテレビ、小学生の男の子は、テレビにうっていた異様な光景に目が釘付けになる。


 テレビに映されたいたのは、裸の男達がお互いを殴ったり蹴ったりしていたのだ。


 「カァチャン、テレビでケンカやってるよ、しかも、なんか裸だし」


 少し興奮気味の少年に、母は冷めたように、答える。

 「これは、ケンカじゃなくて仕事だよ」


 「はぁー、殴ってケンカして仕事なんて、なんでウソつくんだよ、カァチャンは」


 少年は、全く信じられないと言った感じで、また、テレビに目を移すと今度は血だらけで、オッサンが叫んでいた。


 「まじかよ」


 少年が、初めて『格闘技』というものを知った、(正確には理解してないのだ)瞬間だった。




 小学5年生にして、180センチという長身の彼は、学区内ではかなり目立った少年であった。


 父は、真面目なサラリーマン、母はパートで家庭を支え、年の近い妹が1人の4人家族、身長以外ならどこにでもいる家庭であった。

 また、父は格闘技やスポーツに興味もないため、その恵まれた体格の息子はただただ身体が大きいだけの男の子といった感じであった。


 男の子名は一ノ瀬大地。



 彼の人生が変わり始めたのは、中学生に上がったタイミングであった。

 急に、後ろから蹴りを入れられたのだ。


 相手は、地元の上級生だった。


 身体が大きく目立つ彼に取っては、そういう輩のターゲットになってしまってもおかしくないのだ。


 しかし、蹴られた当の本人はピクリともせずに振り返る。

 相手は4人、普通なら、萎縮するところだが、彼は意に介さない。


 体格が違う、まるで、子供を相手にするが如く、その場を一方的に解決する。



 そして、また次の日には、腕自慢がケンカを売ってくる。


 「俺は空手やってるんだ、デカイからってチョーシにのんなよ」


 「受け身もわからない素人が、病院送りにしてやるよ」


 空手をやっているといった青年の突きは痒かったし、投げようした青年はピクリとも身体を動かす事は出来なかった。


 相手が好き放題した後に、一ノ瀬は、一撃でケンカを終わらせる。


 本気で相手を殴った事はない、なんとなく、本気で殴ったら殺しちゃうんじゃないかなと、本気で学生の頃に思っていた。


 そんな、学生時代を一ノ瀬は送っていた。


 彼の人生に、『格闘技』という文字はなかった。

 


 

 



 

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