第63話(残り1話) 隠しイベント?

 悲劇はようやく終わりを告げた。

 俺とレオ兄さんはその後、校舎へと向かい残存していた魔物達を全滅させた。


 ミナもカンタもメラニーも、それからゼールも無事だったようだ。


 最後の最後までハラハラした一日はようやく終わろうとしている。勇者の兄はちょっと心配になるくらいズタボロだったが、まあ大丈夫だろう。


 しかし、ここからが大変な奴もいた。言うまでもなく元凶となったレオである。ダンジョンが消え去り、魔物と悪戦苦闘していた憲兵達がようやく校舎に押し寄せてきた。


 俺達はひたすら事情聴取を受ける身となったが、犯人は既に消滅しているので、責任はほぼレオに向けられることになってしまう。そしてポーン家が潰されるかもしれないと、誰もが不安を抱えていた。


 でも、長兄は証拠不十分であることを理由に、どうにかして責任逃れをするべく奮闘した。


 次男イサックの暴走は、彼ではなく噂に聞く魔王の仕業なのではないかと、そういう話に持っていこうと必死に熱弁を振るったらしい。


 普通はその程度では到底納得されないと思うのだが、今や魔王という存在は巷で囁かれ始めており、お偉いさんは無視することができなかったようだ。


 しかも、証拠となるダンジョン・ストーンも魔具も塵一つ残さず消滅している。作中では僅かながらに残っていたので言い逃れようがなかったが、この違いが運命を変えた。


 俺はその場にいなかったが、どうやらレオは驚くほど饒舌になっていたらしい。意外な一面だと思いつつも、肝心の父上からの信頼は損なってしまったので、傍目からも焦りが見える日々を過ごしている。


 あの様子を見ると、もしかしたら俺が次期当主をやらされたりするんだろうか。それは面倒なので、なんとしても兄上に頑張ってもらいたい。


 今回の事件で、父上と母上は深く悲しんでいるようだった。メラニーはまだイサックが裏切ったことが信じられないらしく、何度も俺に真相を訊いてきた。


 カンタは俺から全ての事情を一度だけ聞き、それからは何も言わなかった。ただ、イサックの話題になると重い顔つきになり口数が減る。


 数日後に行われたささやかな葬式では、父や母よりもメラニーが一番涙を流していた。カンタも釣られるように泣き、多くのメイドや従者達も悲しんでいた。


 そういえば、今回のことで俺達や勇者サイドの評価もまた上がっていた。


 ゼールは魔物達との戦いですっかり自信を取り戻したらしいが、思い込みの激しい自分にも気がついたようだ。


 後になって俺に謝罪をしてきた。ミナにも随分と謝ったらしい。まあ根は悪い奴ではないんだろうけど、やっぱり面倒な男ってところは変わらない。


 全ては丸くおさまり、平和が訪れたかのように思えた。


 しかし、実は話はまだ終わっていない。俺とミナの件が残っている。


 ◇


 五月五日。

 前世でいうGWも終わろうとしている。


 俺はようやく手にした平穏を貪り、だらだらと暮らしていた。事件の舞台となった学園はしばらく大混乱に陥り、生徒達には夏休みばりの休日が与えられるかと思われた。


 だが、どうやら騒動も終わり、日常に戻ろうとしているらしい。五月八日からは普通に登校する予定になっている。


 最近はメラニーにダイブされて起こされたり、カンタに起こされたりして、エリン先生の授業だけはちゃんと受けていた。とはいえ、もう必要なくなってきたし面倒だなぁ。とか思っていた時のこと。


「坊ちゃん! 大変です!」


 血相を変えたカンタが広間に飛んできたので、俺は何か事件が起きたのかと身構えた。


「ミナさんから手紙が来てます! 坊ちゃん宛です!」

「そうか」


 なんだ、ミナからの手紙か。


 この時は安心しきっていたのだ。だが、平和というものはなかなか手にすることが困難だということを、俺は未だに分かっていなかった。


 メラニーが食い入るように見つめている中、手紙を開いてみる。


 丁寧な挨拶から始まり、俺やポーン家のみんなは大丈夫なのかとか、そういった心配の文言があり、最後によければ久しぶりに会ってお話ししたいという内容で締められていた。ちなみに、二人でお会いしたいとも……。


「どうやら久しぶりに話したいらしいな」

「デートっすか! やったじゃないですか」

「メラニーもいくー!」

「二人で会うという話だ」


 待ち合わせに指定したのは、明後日の五月七日のお昼に、桜祭りで行った平和祈念像の辺りで……ということだが。俺の脳裏に電撃が走った気がした。


 そうだ。あそこにはコロッセオがあったんだ。


 まさかとは思うが勇者は、最後のイベントとして俺に挑んでいるのではないか?


 ありえる。ゲームシナリオ的に超ありえる気がする。最後はライバルと死闘をするとか。ハードモードをクリアした時だけ発生する、隠しバトル的なイベントかもしれない!


「デートではないが、行ってみるか」


 しかし、この緊急事態に父と母は笑っていた。


「いやはや、ここまで我が息子が鈍いとはな」

「誰に似たんでしょうかねえ、あなた」


 いや、誤解ですって。きっと命狙われてますってこれ。運命の日を超えたっていうのに、何なんだと困惑せずにはいられない。


 とりあえず返事の手紙を送ることにした。グレイドの人生は、まだ安心するには早いようだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後書き:

最終話は、今夜19時過ぎに投稿予定となります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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