第60話(残り4話) 奮闘する四人

 グレイドとレオが屋上でイサックと相対している頃、カンタ達もまた必死で戦いを続けていた。


「フレア! フレア! フレア! フレア!」

「お、お嬢! 無茶しすぎじゃないっすか!?」


 カンタにおんぶされながら、メラニーは合体サイクロプスに爆発魔法を当て続ける。ミナは剣を持ってカンタに続いていた。


 ラストフロア内は大きな爆発が連続で発生し、巨人は何度も体がよろめいた。カンタは逃げながら、巨人の額にヒビが入っていくことに気づく。


 そして、サイクロプスの顔から生気が完全に消え失せていった。


「あ! や、やったかも! お嬢ー! 勝ったかも!」

「やったー。もう疲れたぁ」

「凄いですね。あの巨人が」


 言いかけてミナは唖然としてしまう。ぐらついた体が、前のめりに倒れようとしていた。それはつまり、こちらが潰される恐れがあるということ。


「あ、危ない! こっちに倒れます!」

「ひゃああー!」

「う、うおおおおお!?」


 サイクロプスの体が重力に逆らうことなく突っ伏した。その衝撃は凄まじいもので、間一髪で下敷きにならなくて済んだカンタ達を吹き飛ばしてしまうほど。


 巨人は全身にヒビが入り続け、やがて全てが崩壊した。なんとか助かった三人は、座ったままでその光景を見守る。


「あーあ。本当にやばかったっつうか。まだ魔物はいるんすよねえ」

「カンター。メラニー疲れた」


 ミナは呆然としていた。考えてみれば、魔物と戦ったこと自体今日が初めてである。しかも、こんなに巨大なボスまで相手取ることになるなんて、誰が予想しただろうか。


 誰もが厄介な敵は倒されたと、そう思っていたに違いない。しかし、崩壊した砂煙が消え去った時、三人は奇しくも同時に事態の変化に気がついた。


「み、皆さん。非常に大勢の魔物がいるようですが……」

「もしかして、サイクロプスの中身ってライオンさんだったの?」

「あ……ありえねえっすよそんなの!」


 ブラックキラーパンサー、ブラックライオン、ブラックタイガーといった獣系統の魔物達が、突如として百を超える膨大な数となって出現した。


 代わりにサイクロプスの巨体が消え去っていた。ミナ達は知りようもないことだったが、合体サイクロプスとは魔物の集合体であり、倒されれば元の姿に帰っていく仕組みになっている。


 どういう作りかは知らないが、現れてしまった以上は戦う他ない。そうでなければ牙に噛みつかれ、食い物にされて無残な最後を遂げる他ないのだ。


「ミナさん! とにかくお嬢を挟むようにして守ってください。後はもう気合いで乗り切るしかないっす」

「は……はい」

「ひゃああ。メラニー食べられちゃう!」

「大丈夫っす! 死んでも俺が守りますから」


 しかし、ほんのわずかな時間で黒い獣達は人間を包囲してしまった。ジリジリと距離を詰め、機会を狙ってくるその目は残虐さで潤っている。


 ミナはとてもこの状況を乗り切れる気がしなかったが、逃げることもままならない以上は剣を構えた。カンタは棍棒を持って睨みを利かせ、メラニーは魔法の詠唱を始める。


「ダンジョン・ストーンさえ壊せれば……」

「そうなんすよね。でも、何処にも見当たらないっていうか」


 ミナの呟きにカンタはうなずいた。


 門番の如き魔物は倒したものの、肝心のダンジョン・ストーンは見つかっていない。逆転の可能性があるとしたら早急に石を割ることだが、このままでは探すこともできそうになかった。


 圧倒的に不利な状況の中、一頭のライオンが吠えた。その声はどんな人間の怒号よりも迫力があり、一向は体が重くなるような錯覚と共に、魔物達が一斉に襲ってくる瞬間を確信した。


 だがその時だった。まるで一才の空気を読まないとばかりに、大声を張り上げてフロアに入ってきた者がいる。


「グレイドー! 貴様、また僕を騙しやがったな! ……って、あれ?」


 勇者の兄が大剣を持ち、呆然とした表情で周囲を見渡していた。


「お兄さま」

「あ! ミナ! 無事だったのか。い、いや……そうでもなさそうだな」

「ドッカン!」


 その一瞬の隙を、メラニーは逃さなかった。先手の一撃とばかりに放たれたフレアは、魔物達が特に密集していた場所に直撃し、何匹かの命を盛大に散らした。


 獣達は自分達がしてやられたことに怒り、ほぼ全員が同じタイミングで飛び掛かっていった。ミナもカンタも、この状況に機敏に反応する。


「させるか魔物共!」


 やや遅れて察知したゼールは、魔石に魔力を注ぎ、大剣に光を灯した。そのまま大剣を上下左右に振り回しながら突進し、魔物の塊を八つ裂きにして突き進む。


大剣が最も効果を発揮できる戦場だったこともあり、魔物達は二手に分かれて戦うことを余儀なくされた。


 しかし、徐々に魔物達はミナのいるグループではなく、ゼールに集中するようになっていく。


「ぬおお! こ、この僕が、負けるかー!」


 あっという間に包囲されて攻撃を受ける彼だったが、必死に大剣を振り回すことで、致命傷と言えるような攻撃は受けずに済んでいる。


 だが、あまりにも多勢に無勢であり、このままでいけば殺されるのは時間の問題ではないかと誰もが予感している。


 ゼールに多くを受け持ってもらった三人もまた、少ないとは言えない数の魔物と戦っていた。


 カンタはメラニーを護衛しつつ、向かってくる虎を棍棒で殴り、深追いしないように他の魔物も攻撃していく。ミナは迫る敵に対して得意のライト・アローで応戦しつつ、体勢が崩れた獣に突きを喰らわせる。


 魔物達は急激に数が減っていくかに思われたが、ここにきて魔法陣が増え始める。メラニーやミナの魔力にも翳りが見え始めていた。


 この死闘を終わらせるには、ダンジョン自体を消滅させるしかない。それを実行できるのは、ここにいる四名ではなかった。

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